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2013年09月29日(日)
『福田美蘭展』

『福田美蘭展』@東京都美術館 ギャラリーA・B・C

個展はコンスタントにやっているようなのだが、東京では随分久し振り。これだけの規模で観られたのは2001年、福田繁雄氏との父子展(世田谷美術館)以来です。最終日にすべりこみ。間に合ってよかった、観られてよかった。

繁雄氏は2009年に亡くなり、祖父である林義雄氏は2010年に亡くなった。ふたりの死に直面した美蘭氏の心の動きを追い乍ら作品を観、作品に添えられた解説を読む。1995年の阪神淡路大震災、2001年のアメリカ同時多発テロ、2011年の東日本大震災と言った大きな事件、災害から、作品を観て「ああ、そういうことがあったな」と思い出す、新聞の社会面を一時賑わせたがその後どうなったか記憶が曖昧な出来事迄、さまざまな社会的事象を扱ったセクション、古典と現代を結びつけるトリックアートのセクション、そして作家個人の思い出が反映されたセクション。

それぞれが、どこから観ても福田美蘭。学識と野性を手から画面へとおとすことが出来る怪物だ。鋭い批評と軽妙なユーモア。静かな過激。そういえば会田誠さんが「名実ともにパイセンと呼べるのは美蘭さんくらいだなぁ…。」とツイートしていたなあ。はっとして、なんだか腑に落ちた。

そんな彼女が、人生のそして芸術の先輩である父と祖父を相次いで失くし、それらが反映された作品が今回とても心に残った。繁雄氏の偉業はよく知っているしとても好きな作家だが、林氏のことは世代的にも馴染みが薄かった。今回改めて調べてみたら、肉の万世のあのキャラクター(モーちゃん・ブーちゃん)、デザインを手掛けた方だそうだ。無意識のうちに触れていた、くらしに寄り添う絵。その林氏の仕事―絵本、童話を中心に―を模写した大画面の作品『涅槃図』の前で立ち尽くす。たくさんの、たくさんのキャラクターたち。動物たち。三匹の子ぶた、さるかに合戦、桃太郎、金太郎……これもくらしに寄り添い、記憶の奥底にあるものだ。日常で思い出す機会は少なくとも、ひとめそのキャラクターを見ただけでどのむかしばなしか思い出せる。随分長い時間その絵の前にいた。模写している美蘭氏の心の動きを辿るような思いすらした。

被災によるストレスで溝が数多く刻まれたアサリも、星座になったワールドトレードセンターも、白くペイントされ植木鉢に差された人間の腕も、静かな悲しさがあった。しかし、倒壊した家屋の横に「切り倒さないでください」と札をさげられた木には花が描かれ満開だ。喪失のなかから芽吹く生命力を想像する。ここにも心を辿る旅。

会場である都美術館の設計者、前川國男への敬意をこめた作品も素敵でした。思わず笑みが零れる。

即完して再刷迄したらしい図録がまたもや完売していたのが残念。最終日だから仕方ないか…しかし……(泣)美蘭さんの作品集って、扱うモチーフがモチーフなので書店に並ぶようなものがないんですよね。入手出来ず残念だったけど、 『涅槃図』のチャリティー版画を購入しました。あの大画面が、掌に載るちいさな刷りものに。複製品の愛おしさ。