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2013年06月30日(日)
『さよなら渓谷』『攻殻機動隊 ARISE border:1「Ghost Pain」』

『さよなら渓谷』@新宿武蔵野館 1

目は口程にものを言う。真木さんも大西さんも目ぢからすごいうえに艶のある黒目が綺麗。黒目がすごい大きいと言うか、目全体における黒目の割合がすごい多いですよね。言葉を交わさないときのふたりの表情に始まり、渓谷の涼やかな風景、それとは裏腹に汗ばむ登場人物たちの肌、強い日差しと厚い雲…台詞のないシーンの饒舌な、芳醇なこと。

ふたりの関係性が明らかになって行く過程の説明は、取材をしている記者渡辺(とその部下小林)の口から語らせ、その状況=当事者しか知らない光景は最低限のものを断片的に見せる。謎を解いても彼らの心情をどこ迄理解出来るのか。観客は記者と同じ視点に立たされる。当事者にしか判らないことは多い、しかしその判らないことを想像することだけは出来る、想像することしか出来ない。四人の男たち、夜中にフェンスを越えた無邪気な自分、自分をおいて先に帰ったかなこ。夏美が許せないのはその全てなのだろう。レイプは心の殺人だと言ったひとがいたが、そのとおりだと思う。身体だけが生き残り、その後の人生には理不尽極まりない悪意や差別がついてまわる。そして自責の念はその範囲を超える。傷は癒えることがない。

その傷を一瞬でも忘れさせてくれるのが、加害者と深く関わることだとしたら?幸せになるために一緒にいるのではないと言うふたりが見せる、ほっとする光景。ラーメンを食べてむせる尾崎に夏美がかける言葉、スーパーにふたりで出掛けて行った帰り道。そして没頭するセックス。静かな時間が過ぎる。

鏡のような存在の登場人物たち。尾崎と渡辺は、将来を嘱望されたスポーツ選手の成れの果てとして。夏美と小林は、男中心の社会で生きる女性として。尾崎と夏美について取材するうち、渡辺は妻との間に出来た溝を少しだけ埋めることが出来る。記者の激務をこなす小林は、男に囲まれた環境で溌剌と仕事が出来る自分を振り返る。彼らの心が少しずつ変化していく様子に、具体的な説明がある訳ではない。そこがいい。タイトルにある「さよなら」の扱い方もよかったな、ラストにふっと。このまま一緒にいると不幸にはなれない。でも幸せになってしまうわけにはいかない。夏美が別れを告げたのは、尾崎ではなく「不幸になること」であってほしい。

あとはーなんだーおーもりさんのわがままBODYが堪能出来ます。個人的には元ラガーマンって設定が嬉しかったわ!そして新井くんのクズっぷりが最高でした。KU・ZU!クズもいいとこ!こういうクズがいちばんタチ悪い!あー憤る!新井くんが嫌いになりそうなくらいよー!それにしても新井くんも井浦さんも、少ない出番でものすごい印象、存在感。そうそう、木野花さんもワンシーンだったけどすごく印象に残った。原作も読んでみよう。

・このインタヴューよかった→『INTRO | 大西信満インタビュー』

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『攻殻機動隊 ARISE border:1「Ghost Pain」』@新宿バルト9 シアター3

スタッフキャスト一新と言うことでどうかな〜と思ったものの、そもそも原作は読んでいないし押井監督の二作が基本で神山監督の『S.A.C.』シリーズも楽しく観ていたので大丈夫だろうと。で、全然大丈夫ってかすごく面白かった!私はすごく楽しんだ!

公安9課設立前夜、皆若〜いので声優変更もそれ程気にならず。草薙も若い…と言うか幼さの残る、十代と言ってもいいくらいの見てくれ(擬体)なので、声もこれくらいでいいんではないかと言う感じ。ちょっとやんちゃと言うか、感情が比較的表に出ているし。こんな青い草薙が見られた!てとこもなんか嬉しかったわー。で、その草薙のルックスがフィンチャー監督版『ドラゴン・タトゥーの女』のリスベットとすごく通じるところがあったんですね、デザインの際参考にしたのかなーってくらい。そして後見人なしでは自分の財布もあけられない立場にいたが、最終的に独立を勝ち取ると言う設定。うわっと思った。気になっていろいろ検索してみたら、逆に『ドラゴン〜』公開時にop映像が『GHOST IN THE SHELL』のop思い出す、リスベットと素子が似てるって指摘が結構あったんですね。こうやってお互いに影響を及ぼしているのかも知れないな。

と言う訳でキャラクターデザインがちょー好みだったんですよ…ほんとよかった…『S.A.C.』のばらっばらだった絵をこれに統一してほしい程に……『S.A.C.』は〆切りに追われてどんどん作っていかなければならないためか演出や作画チームが複数あったんですよね。ってこれテレビシリーズ(=連ドラ)の常か。回によって絵が全然違って、それこそ各キャラクターの顔も別人かってくらい。いいのとえーっていうくらいイケてないのとの差がすごかったんですよね……。

肉弾格闘シーンの重い感じがまたよかったー、ちゃんと殴られてる!痛そう!て感じが。腕をひきちぎられるとこの草薙のブッサイクな顔があんだけ遠慮なく描かれてたとこにもガッツポーズ。その前の頭割られそうになるとこは押井さん版のあのシーン思い出したな……と言えばここらへんの草薙のアクションは『ブレードランナー』のプリスぽかったです。と言えば(再)『S.A.C. 2nd GIG』には折り鶴のエピソードがあったものなあ。で、電脳戦のスピーディな演出も格好よかった!ハッキングのシーンを乗っ取られる側からの視点で、そのえっ?ってな困惑も一緒に見せるという。バトーが草薙に乗っ取られる瞬間とかちょうよかった……。

話は前述のように時間を遡っているので、いろいろな謎が明かされる的な部分もあります。それに伴って他シリーズとは違う設定が出てきていたり。草薙が何故生まれたときから擬体なのか、前のシリーズでは飛行機事故かなんかで…だったけど、今回薬物テロによって母親の胎内で被害に遭って、脳だけを救出出来たからってことになってた。……とここ迄書いていや待てよどっちかが偽の記憶かもしれんと思い始めて訳が分からなくなっている。こういうとこが攻殻シリーズの面白いところ!

音楽は好みもあるかな…一緒に観たささんとopが『デザインあ』まんまじゃねと言う話はした(苦笑)。や、コーネリアスの他の仕事では好きなものも多いですよー。

タチコマのプロトタイプ?ロジコマもちょーかわいかったなーまだちょっとアホの子ぽくて。あと荒巻さんが白髪じゃないとこにほろっときそうになりました。これから草薙が9課のメンバーをスカウトしていくよー、まだあと三人出てきてない!彼らはどうやって出会うのか!四話完結で次回は11月だそうです、待ち遠しい!