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2013年06月01日(土)
カンパニー・フィリップ・ジャンティ『動かぬ旅人』

カンパニー・フィリップ・ジャンティ『動かぬ旅人』@PARCO劇場

些細なことですが、日本での呼称がフィリップ・ジャンティ・カンパニーからカンパニー・フィリップ・ジャンティになったんですね。2007年の『世界の涯て ―LANDS END』以来、六年振りの来日公演です。カンパニー、PARCO劇場ともに四十周年とのこと。めでたい。

『動かぬ旅人』は1996年にも来日公演があり観に行ったのですが、記憶も随分彼方です。どんなんだったっけ…と思いつつ席に着く。目の前に拡がるひとつひとつのシーンが、初めて観たときの光景を瑞々しく甦らせてくれました。ストーリーを追っているようで追っていないので、順序立ててシーンを思い出せないだけなのだ。普段「ストーリー」をガイドにして観ているってことだなあ、と気付かされる。忘れているのではなく、記憶の奥の抽斗に入ったそれを、ガイドが行方不明になったときどう思い出すか。探し下手と言うか、整理下手と言うか、自分の要領下手を改めて思い知る(笑)。

この光景にまた会えて嬉しい。

目の前に差し出されるイメージにひたすら酔い、夢中になり、魔法にかかる。まず出演者が何人いるのか?ってところからおろおろしますね(笑)。男性三人、女性四人と確認出来たのは舞台が始まって結構経ってからでした。トリッキーな仕掛けも楽しい。命を吹き込まれた人形たち。もののように投げられていく赤ん坊たち、人間と人形のキメラたち。経済を動かして、文明と共存して、砂漠に、海に還っていく。劇場という場所から動かぬ旅人が観客に見せてくれる世界。

今回Y列(実質二列目)だったのでひきで観たかったなーと思ってはいたものの、いざ始まってみれば死角がなかったようにも思えました。あるとしてもそれは意図的に作られた、このカンパニーならではのマジックになっている。これってなにげにすごい。長年の連携、再演を重ね、上演劇場の機構を知り尽くしているようにも思えました。継続の力。段ボール、シャカシャカビニール(これホントはなんて名前なんだろう…と今更気になって検索したら「低圧法高密度ポリエチレン (HDPE)」だと判明。「シャカシャカビニール 正式名称」でヒット。インターネットって便利だなあ)と言った身近なものが、想像力によって舟にも波にも服にもなる。おもちゃ箱のような楽しさ。そして演者たちの笑顔。

あっけらかんとしたエロとグロとエグみがあるのも大好きなところです。青と桃色の、夜明けとも夜更けともつかない照明も美しい。官能的であり、ヘルシーでもある。ヘルシーの基には死がある。

ワークショップを経て作品毎に出演メンバーを集めるこのカンパニー、『動かぬ旅人』』には日本人キャスト沖埜楽子さん(ex. 上海太郎舞踏公司)が加わっているとの情報が伝わってきておりましたが、今回の来日公演に彼女は不参加。パンフレットの舞台写真には姿がありました。

カーテンコールでは裏方さん三人が登場、これも恒例。裏方さんも出演者と言っていいものですしね。後ろの席のひとがひとこと、「はあ〜、終わっちゃった」。ああ名残惜しい、あっと言う間に終わってしまった、でもとても豊かな時間を過ごせた。

「魔法にかかりに、いらっしゃい。」また会えるのを楽しみにしています。