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2013年03月04日(月)
BÉJART BALLET LAUSANNE JAPAN TOUR 2013

モーリス・ベジャール没後5年 記念シリーズ3『BÉJART BALLET LAUSANNE JAPAN TOUR 2013』@東京文化会館 大ホール

モーリス・ベジャール・バレエ団来日公演、Aプロ『ディオニソス組曲』『シンコペ』『ボレロ』(プログラム順)。ジル・ロマンとジュリアン・ファヴロー参加のアフタートークもありました。『ボレロ』目当てで行ったのですが、『ディオニソス組曲』『シンコペ』がむちゃむちゃよかった!勿論『ボレロ』もむちゃむちゃ素晴らしかった!男性ダンサーのボレロ観たの久々だったので燃えたわー(萌えたではなく)。ベジャールさんとこのバレエ団は肉感的なダンサーで構成されていて、それが魅力的。体重の軽さではなく、筋力による力強く美しい滞空を見せる。健康な肉体に官能が宿る、身体に体温が灯るさまが見られる。

1984年初演の大作『ディオニソス』は、当時80人程いた20世紀バレエ団によるダイナミックな群舞が見所だったそうです。今回上演された『ディオニソス組曲』はハジダキスによる楽曲とギリシャの伝統音楽のシーンを中心に再構成したもの。BBL少数精鋭による機動力が活かされている印象です。タさん曰く「BBLは団員が少ない分働きものが多い」(笑)。タベルナ(ギリシャの酒場)の客たちが話に花を咲かせているうちにダンスが始まる。神話の世界へ場面は移り、ディオニソス=バッカスの祭典へと展開していく。「ワインが、音楽が、太陽が、海が、そしてわれらの神々が必要なのだ。神々はわれらと共にいる。どの村にも、どのタベルナにも、どのダンスのなかにも!」

この辺り、先週観た『オイディプス王』の当日配布リーフレットに山形治江さんが書かれていた「演劇の起源」を思い出しました。以下抜粋。

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酒に酔った村人たちが即興の歌舞に興じていた。どんな即興歌にも、必ず酒神バッコスへの感謝と称賛の言葉が添えられた。すると突然、それまで歌舞の先導役を務めていた男が集団から一歩離れ、こう叫んだ。「私はバッコス!はるばるアジアの地からやってきた!」陶酔のあまり、神になりきってしまったのである。この「なりきり男」の出現で、座はさらに盛り上がった。「よくおいでなさった!」「なぜここへ?」「どうやってアジアから?」なにしろ酔っぱらいはノリがいい。たちまち男は神として遇され、あちこちから質問が乱れ飛ぶ。男も神としてそれに応じた……。
この男こそ最初の「俳優(=応答する者)」であり、彼を取り巻く群衆は「コロス(=合唱舞踊団)」と呼ばれるようになった。
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後半は男性ダンサーの面目躍如。アフタートーク司会の佐藤友紀さんが「男性ダンサーに非常に人気がある、小林十市さんや首藤康之さんにベジャールの作品で何を踊りたい?と訊くとディオニソス!と返ってくる」と言うコメントにジルが「ストリートダンス、ヒップホップな側面もあるからね」と答えていました。半円に陣取った男たちが手拍子を打ち、歓声をあげる。やがてふたりが中央へ歩み出てダンスバトルが始まる。躍動感溢れる熱狂的なダンス、ダンス、ダンス!踊る喜び、身体が、心臓が脈打つ喜び―生きる歓喜が迸るシーン。日本人ダンサー、大貫真幹さんのソロ格好よかったー。『ボレロ』では那須野圭右さんがリズム最前で踊っていて、やっぱり目が行ってしまいます。現在BBLには研究生含め四人の日本人が在籍しています。

美術は横尾忠則、衣裳はジャンニ・ヴェルサーチ。横尾さんが『ディオニソス』初演時描いた絵が、今回の舞台でも使われました。パンフレットに当時の思い出を寄稿していた横尾さんが「ベジャールもジョルジュ・ドンもヴェルサーチも3人共すでに鬼籍の人となって、この場にいないことが何よりも残念でならない」と書かれていました。

『シンコペ』はジルの振付。音楽用語でおなじみのシンコペーション。医学用語では卒倒、気絶、心臓停止。心臓が停止したとき、脳では何が起こっている?シティ・パーカッションによるひとなつこい音楽、愛嬌のあるリズムに乗って踊るチャーミングなダンサーたち。ギロチンで斬られた首は地面に落ちる感触を自覚出来るのだろうか?と言う言葉を思い出しました。それは夢か、幻覚か。そのまま死に連れていかれるか、生に引き戻されるか。ソファに座ってTVにかじりつき?な青年がソファに呑み込まれる場面、走査線を思わせるスクリーンの隙間から無数の手が出て来る場面、何故か『ビデオドローム』や『トワイライトゾーン』の口がない女の子迄芋ヅル式に連想してしまいヒー!となった……怖い!全然関係ないこの3つ!なんでこうなる!

それはともかく別日に『ボレロ』を踊るエリザベット・ロスがシャネルのスーツを思わせる50年代的なファッションに身を包み、ソファの青年についたり離れたり構ってあげたり寄り添ってあげたりなダンスがとてもかわいかったな。貫禄ある美しいダンスなのにかわいいの。照明付きの帽子もかわいかった(この帽子込みでシャネルみたーいて思った)。ぽっ、っと光が灯り、ぽっ、っと消える。命のスイッチみたい。身長順に綺麗に並んだ群舞は、システマティックな構図を感じさせ乍ら愛嬌もある。LEDのような照明は真夜中の病院のよう。なのに何故か暖かみを感じる。あの色、なんて言えばいいんだろう、ブルーグレーみたいな……夜の病院は怖いけど、必ず誰かが起きて働いている。そこからくる安心感みたいなものかな。今後レパートリーになってほしいー。背景を知りたい、また観たいと思わせられる作品でした。ジルがアフタートークで解説してくれるかなと思っていたんだけど「『シンコペ』については明日話します」だって、ガーン。

アフタートークでの「『ボレロ』の解釈についてドンは“祈り”、ギエムは“人生そのもの、愛”と答えていたがあなたは?」との問いに、まずベジャールの振付に忠実に踊ることを意識する、そしてリズムの青年たちとの関係性を重視する、と前置きしたうえで、“死の尊重”と答えていたジュリアン。確かに彼の踊りは死の色濃いものでした。指摘されていたけど終盤「ハッ!」と言う声をあげた。リズムを、あるいは自分を鼓舞するため?「いやあ、とにかく必死なので、今際の際の叫び声のようなものです(笑)意識してなかった」と茶目っ気たっぷりに答えていたけど、「生まれた瞬間からひとは死へと向かっていく。生きることは死に近付いていくこと」とも言っていた。リズムに呑み込まれるメロディは、命を踊りに差し出している。踊る度に死に、そして生き返る。腕、脚が長く、掌が大きい男性ダンサーが『ボレロ』を踊る姿は大鷲のよう。そのヴィジュアルからも火の鳥を連想しました。

そしてそうそう、リズムとの関係性!今回チームって感じがすごくしたー。メロディをゲストに迎えるのとはまた違う、チームのボレロ。カーテンコールで舞台上のダンサーたちがあげた雄叫び、円卓から降りるジュリアンを笑顔で迎えるリズムの面々。いいチームだなーって。BBLには数年ボレロを踊る男性ダンサーが不在だったそうで、士気も高まっていたのだと思います。またひとつ、心に刻まれる『ボレロ』を観ることが出来ました。

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ジルとジュリアンのコメントは記憶で起こしたのでそのままではありません。アフタートークはYouTubeに全編アップされているので、正確なニュアンスはこちらで是非。司会進行は佐藤友紀さん、通訳は岡見さえさん。