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2012年04月12日(木)
DCPRG@STUDIO COAST

Ron Zacapa presents DCPRG@STUDIO COAST

前日雨でヒヤヒヤ。実は雨男は田中ちゃんだったと自己申告がありましたが、過去の経験から言って菊地さんと丈青の疑いも晴れません。

と言う訳で『SECOND REPORT FROM IRON MOUNTAIN USA』リリースパーティです。DCPRGをDATE COURSE PENTAGON ROYAL GARDENと打たなくなるのも寂しいですな、と言いつつ会話では「デートコース」と言ってしまいますが。新譜のタイトルがこれなのにペンタゴンの呼称を使わなくなると言うのも皮肉なものです。世界からのいたわりを必要としているかのような、現在のアメリカのにっちもさっちもな疲弊を察知してのことなのかは菊地さん本人にしか判らないところです。が、この嗅覚、毎度乍らぎょっとさせられるところがある。再始動前のDCPRGのライヴ時には北朝鮮が何かやらかすことが度々あったが、今回もニアミスでしたな……。

ライヴ前日迄『アイアン・マウンテン報告』や『キャッチ22』を再読したり、村井康司さんのレヴューから「(パタフィジークによる)危機の数は13」と「クールホイップ星の陰惨でなめらかな四万年戦争とその甘い終結」を再読したりしてもうなんてえの、妄想渦巻くこと甚だしく、弱ったアメリカに8歳の強盗団を送り込むそれがSIMI LAB!とか、兎眠りおんの声を聴くと瞳ちゃんのことを思い出してせつなくなる!とスパンクハッピーを聴き出したりとか我乍らきもちわるい状態になっておりました。

新譜に参加したメンバー8時だよ全員集合!DCPRG本隊登場も20時ときたもんだ。そこにSIMI LAB、JAZZ DOMMUNISTERS(MC菊、MC YOSHIO*O)とCDRで兎眠りおん、アミリ・バラカ。レコーディングメンバーが全員揃うってこと、もうないんじゃないのか……。いやもうなんと言うか、再現出来るのか?いやライヴだから完全再現されたものを聴くのが目的ではないんだけど、あれらの(エディットしてある)楽曲をライヴでどうやるのか?と言った期待もあり、SIMI LABの面々については全く不安はないものの、JAZZ DOMMUNISTERSは一発勝負でもやりきれるのか、リリック忘れたりしないか(笑)と言ったまるで孫の運動会を参観するような気持ちもあり……何様。いやだって楽器演奏や指揮や歌に関しては何の心配もないが、ラップだもん!ラップなんだもん!そういや客入り心配した菊地さんが「前売りが25枚ぐらいしか出ていないので(ウソ)このままではスタジオコーストのフロアで世界陸上の新木場大会が開かれてしまいます」って言ってたなー。実状は運動会開ける程フィールドは空いてませんでした。左右のスペース潰してステージとフロアの幅を同じくらいにしていたので、結構なぎゅうぎゅう度。うーむ、これだと確かにリキッドやAXでは収まらなかっただろうし、結果的には正解だったのではないだろうか。ご本人も「実数(実効?)が出てよかったです」と仰ってましたね。あとやっぱり音がよかった、流石コースト。

そしてコーストと言えばミラーボール。ここで「Mirror Balls」をやらない手はないだろう、やってくれ…ないかな……や、やってくれるよな……と言った期待もあり、それなら退きでミラーボール込みの全景を見たいと二階席のチケットを買っていました。で、最後列ド真っ正面で立って観た。心持ちとしてはリリースパーティならではの「世界初演を目撃する」と言う緊張感はかなり大きかったです。

あー前置きが長い。そしてこれからも長い。140字でとか三行でとか、自分には出来ないんだよー!以下自分用備忘録なので何今更ってことも書いてるし相当気味悪いのでご注意をーってこれいつもか……。類家くんの、ハーマンミュートにエフェクトをかましたソロからスタートです。

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セットリスト

01. 殺陣/TA-TE CONTACT & SOLO DANCERS
02. PLAYMATE AT HANOI
03. CIRCLE/LINE
04. CATCH22 feat. JAZZ DOMMUNISTERS & 兎眠りおん
05. MICROPHONE TYSON feat. SIMI LAB
06. UNCOMMON UNREMIX feat. SIMI LAB
07. 構造I
08. DURAN feat. "DOPE"(78) by AMIRI BARAKA
encore
09. MILLOR BALLS feat. SIMI LAB / THE BLUES

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こ、今回のライヴをImpulse!からリリースすればよかったじゃない…と思いました!「間に合わなくてごめんよ。いつでもそうなんだ」ってそういうことなのー!(違う)いやスタジオ盤も編集ライヴ盤もすごく好きなんですが、なんてえの、菊地さんって直感すごく鋭い反面非常に用心深いと言うか警戒心が強いと言うか(AB型←それで片付けたくなる)、リサーチと準備に時間をかけて、考証、実験を重ね乍ら照準を合わせていくじゃないですか。そんでしっかり成果を出すじゃないですか。それが!この夜!だったと!思います!……いや私が単に鈍いだけかも知れない。スタジオ盤でもそれはしっかり示されているんだと思う。しかし『SECOND REPORT FROM IRON MOUNTAIN USA』の楽曲は、ライヴでこそ真価を発揮するのではないかと思った……。あたりまえと言えばそうなんだが、ライヴでは全員がいっぺんに演奏するので。生身の人間がそれぞれのリズムを刻むことによって発生するグルーヴはこの場にしかないもの。

コンセプト自体は不変ですよね。(明晰に)気の狂った指揮官、混沌とした戦場、傭兵たちは自分の持ち場でガッツリプロの仕事をする。まさに“キャッチ22”の世界。複合リズムによってなまりが生じるのであって、プレイヤーはそれぞれのリズムを正確に刻んでいる。BPMは同じなので、どこを起点にソリストがのっかっていくかでもグルーヴが変化する。一定のルールを死守するリズムセクション(特にアリガス)の強靭っぷりには頭が下がります。実際には生身の人間が演奏することで、自己修復機能と言えばいいか、どこかのリズムにズレが生じれば他のプレイヤーが自然とそれに対応して編隊を組んでいき、その過程でもなまりが出る。

ラッパーもソリストと考えればいいんですね。言葉を扱うから文節のどこで切るか、単語のどこで止めるかあるいは始めるか、で起点が動く。ホーンもそうではありますが、直接声から発せられるリズムには当然ズレがあり、なまりがある。そして真情、メッセージ、礼を尽くした愛すべき言葉の数々。「MICROPHONE TYSON」〜「UNCOMMON UNREMIX」むちゃくちゃキた!SIMI LAB MC'Sの真摯さにも打たれたし、陽性のキャラクターにも笑顔にさせられました。

こっからなだれ込んだ「構造I」のドライヴ感はもうたまらんかったです。しかしこの曲ってスピーディだしメロディがすごくポップだしで聴く+踊る方はすっごい楽しいが、演奏する方はすっごい難しいみたいですね。今回もところどころ危なかった(大村くん曰くレッドゾーンがある、と)。そしてこれのアウトロ、千住くんのソロがすごかった。ブラックミュージックでよく使われるリズムパターン(ピチカートファイヴの『月面軟着陸』で小西さんが多用してたパターン。この説明で通じるのか……「ドンドンタンツクツタトトドン」ってやつ)を展開させていき、途中ところどころで音を抜いていく。直近の3曲でクラウド側もズレの仕組みを体感しているので(曲順もよく考えられている…)、音がない部分でも各々リズムが刻めている。だから音を再開すると、つんのめりを起点として把握出来る…この説明で伝わるのかー!いいや自分用だから!(投げた)あーこういうことだったのかと身体で解った感じでした。千住くんてポリリズムマナーを感覚で体得している印象がある…それを今回はわかりやすく翻訳して提示してくれた。これはすごく面白かった。

そしてその流れから田中ちゃんソロ vs アミリ・バラカCDJスクラッチへと移行、リズムとアジテーションのグルーヴを展開させて「Duran」へ。唸るわもう。そのアミリ・バラカの「DOPE」、音声聴いたりしてた(こちらにファイルとテキスト)のですが序盤の“uuuuuuuuuu, uuuuuuuuuu”ってエディットじゃなくてもともとそうなんですよね。この時点でもうノレる訳ですが、その後に続くCDJスピンもすごい。掬いあげられたパンチラインがバシッと飛んでくる。この演説音声は高見プロデューサーが見付けてきたそうで、菊地さんはインタヴューの際高見さんをいじりまくるがなんだかんだですごくいいコンビだと思いました(微笑)。いやホント許諾とれてよかった……。

そうそうそして「PLAYMATE AT HANOI」のビルドアップっぷりが凄まじかったです。「殺陣」アウトロからハノイの断片がぽつりぽつりと頭を出し、「ハノイ?ハノイなの?」とビリビリきたところにあのベースラインがどーんと。これにはシビれた!このハノイのイントロ、昨年のいつから変えてきたっけか。10月のリキッドか12月のブルーノートか……これはキますねー。宇宙戦艦ヤマトが地中からもこっ、もこっ、どばばーと出てくる感じ!(もうこんな例えしか思いつかない自分がいやになる)ぎゃー、ベトナム戦争ー!地獄の黙示録ー!

そして「CATCH22」、JAZZ DOMMUNISTERSはカンペ持ちでしたがいつでもどこでも俺様の大谷くんの平熱っぷりが素晴らしかったです。菊地さんはりおんちゃんと自分のリリック両方操りつつも見事なサーフライダーっぷり。おわーすみませんでした、しかし菊地さんにマイクリレーしたときフロアに緊張が走った気がする(笑)。やっぱりこういうとこ、ステージが日常のひとだからガッツリ魅せますね!その後のSIMI LABとのかけあいもよかったな…「いたら自分のこどもくらいの歳の子たちとどう接したらいいか判らない、目を見て話せない」なんて言ってたけど。そしてりおんちゃんの“デイジー、デイジー”にはほろりときそうになった。思考器官を停止され、途切れ途切れになっていくHAL 9000の姿を思い出す。

えーとあとは何だ、坪口さんがシンセ二台とエフェクターを駆使したソロ弾いてたとき左右のペダルを素早く交互に踏み乍ら弾くもんでその動きが反復横跳びみたいで面白かったとか、研太さんが楽しそうに手拍子してたのを見たときはニコニコしたとか、田中ちゃんのあのジャケット『NO MUSIC, NO LIFE.』ポスターで着てたやつで、あれ上だけボタンでとめるからケープみたいに見えてかわいいとか(笑)演奏と関係ないもろもろも楽しかった…あとこれはいつもだけど、ステージ奥のプレイヤーがソロのとき、前にいるプレイヤーがハケたりしゃがんだりする場面も好きなんだよね…クラウドにソリストがよく見えるようにしてくれる。大儀見さんがソロのとき菊地さんしゃがみっぱなしでコンビニ前にたむろするヤンキーみたいになってたり(笑)今回大村くんが暑さ対策のためにサーキュレーターを置いてて、序盤からあのサラサラヘアーが風になびいててビューティホーだったんだけど、彼のソロのとき、前にいた坪口さんがおもむろにそのサーキュレーターを掴んで大村くんにぶわーと当てたのには大ウケしました。

FAも楽しかった!KILLER SMELLSの登場時の紙袋はかわいいし、豆のオジキ a.k.a. コロボックルもしくはクルテクスター菱田さんは素敵だったし(き、きくちさんがおおきく見える…!)菊地さんは久々白スーツ+帽子だし(DCPRGではお召しかえしてB-BOYスタイル)、バックトラック何げに複雑でこれ唄うの難しいよ!でもすごく格好いい!だったり、菱田さんときどきキャラが崩れて敬語になったりして、いいひとが顔を出すのがまたおかしかった。SIMI LABは5MC1DJで登場、「こんな大きなところでは滅多にやれないから嬉しい」と言っちゃう素直さと明るさ。初対面の相手にもパンと胸を開き、手持ちのカードを全部見せてしまうようなオープンさに即虜。

アンコールは待ってた有難う、「Mirror Balls」とSIMI LAB「The Blues」のマッシュアップ。いつもと違う構成の指揮が遅れてごめんごめんと手を合わせる菊地さんにも笑顔。まわるミラーボール、花弁のように散る光。フロアから次々と掲げられる掌、続くハンドクラップ。そして“I got love, I get strong”。川勝さんに届け。

楽し過ぎたせいかライヴ後食べたものがどうかしたのか現在じんましんだらけでぼんやりですよ。新譜が出た前後いろいろ歯痒いこともあったけど、ライヴで聴くと一気に解決した。こういうことはこれからも起こる。勿論いちばん歯痒いのは本人だろう。

最後に「Mirror Balls」を聴いていて思い出した、山形浩生氏による『アイアン・マウンテン報告』訳者あとがきを。

「構築的で分析的で、極論を平気で言えて、現実的でありながら抽象的な議論をつきつめるおもしろさも知っていて、ヒューマニズムだけでは世の中まわらないのを知ってる――平和が必要としているのは、そのような人間である。」