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2011年04月28日(木)
『Dr.Feelgood -OIL CITY CONFIDENTIAL-』

『Dr.Feelgood -OIL CITY CONFIDENTIAL-』@シアターN シアター1

イギリスエセックス州、キャンヴェイアイランドから生まれた“世界最強のローカルバンド”、ドクター・フィールグッドのドキュメンタリー。パブを次々と満杯にし、契約前からNMEやMMを賑わせ、契約が決まったアルバムはチャートを駆け上がり、アメリカツアーへと出かけていく。同じ街で育った幼なじみがしのぎを削り、やがてバラバラになっていく。

40年前に結成され、オリジナルメンバーでの活動は6年。映像資料があまり残っていないのかも知れない(実際のライヴ映像自体は結構観られます。シビれる格好よさ!)。しかしそれを逆手にとったかのような構成がいい!契約前のフィールグッドは演奏が終わると衣裳のスーツを着替えることなく即バンで帰宅し、そのままの姿で翌朝仕事に出かけていた。その慌ただしい様子から、彼らは銀行強盗の合間にバンド活動をしていると言われていた(笑)。これを受けた粋なイメージ映像が随所に挿入される。ギャングたちが街の地図を前に怪しげな相談をし、パブを攻略し、金をかき集めて逃げるようにバンで帰っていく。

それに加え、フィールグッドのメンバーと歩くキャンヴェイアイランド名所巡り、メンバーの証言、彼らの周囲にいたひとたち、影響を受けたひとたちのインタヴュー映像が短いカットで矢継ぎ早に繰り出される。インタヴューそのものも、多くの証言がマシンガンのごとく続くので、序盤はそれについていくのに心地よい集中力をかなり使いました。パンクムーヴメント前夜、彼らを目撃し衝撃を受け、楽器を持ちバンドを組んだひとたち――ジョー・ストラマー、スティーヴ・ジョーンズ、サッグス、アンディ・ギルらが、バンドへの興奮と、ウィルコ・ジョンソンが脱退してからのバンドへの正直な気持ちを語る。

とにかくテンポがよくて、膨大な要素を一気に見せていく。スターダムに駆け上がるバンドの勢いそのままのようで、意気が上がる。中盤から少しずつスローになっていく。それはバンドの失速をも残酷に照らし出す。

ウィルコ、ジョン・B・スパークス、ビッグ・フィガーはおじいちゃんになって、笑顔で集まって、当時のことを振り返る。リー・ブリローはいない。彼は1994年に亡くなってしまった。リーとウィルコは仲違いしたままだった。リーのお母さまや奥さまのインタヴューもあり、今でもわだかまりが残っている様子が見て取れた。ステージ上でのリーとウィルコはライバルでもあった。でもどちらも、お互いのことが大好きで尊敬しているようだった。「俺はリーの護衛だよ。マシンガンギターでリーを守るんだ」なんてウィルコは言っている。それを証明するような映像もあった。ウィルコはリーの前に立ち、オーディエンスに向かってギターを構え、リーのことをちらと振り返る。最高に美しいバンドの光景だった。

それが少しずつ擦れ違ってきた。勢いがあるときは気にならないことでも、疲労が蓄積してくると、それぞれのライフスタイルの違いからくるステージをおりた後の過ごし方が気に入らなくなったり(それでもツアーなので四六時中一緒にいなければならない)、ソングライターがウィルコほぼひとりと言うバンド間のバランスがとれなくなってくる。気付いたときには修復が難しいところ迄行っている。当時の記事によると「脱退」か「解雇」かでウィルコとバンド間には齟齬があったようだ。分かれたメンバーはそれぞれの活動を続けるが、どちらも困難がつきまとった。

メンバーが育った環境を紹介するシークエンスとしてのキャンヴェイアイランドと言う土地も、独特の魅力を持って描かれていました。精油所で栄える街。洪水で流された街。メンバーは精油所がそびえる街の風景を美しいと言いつつ、観光客向けのポストカードでは、精油所を塗りつぶして綺麗な景色にして売るんだぜと言う。街の経済はその施設に依る部分も多い。TVの討論番組?に参加していた若き日(ロン毛!)のウィルコが「キャンヴェイが経済的に貧しいから精油所を増やすのか?火災の危険があるのに?精油所はもういらない!」と主張し拍手をもらう映像があった。タイムリーな…いや、こういうことは世界各所で繰り返されてるんだなと思う。

バンドの二度と戻らない時間は輝かしく、永遠に続くことはない。それは人生も同じこと。幼なじみでもあったメンバーは、地元キャンヴェイアイランドで「夢を語り合った」。そして叶ったその夢は「夢以上のものだった」。「何をバカなことをやっていたんだろうと言うひともいるかも知れないけど、俺はこの人生でよかったと思っている」。つらく悲しいことがあっても、生きていればいつかは笑って振り返れるときが来るかも知れない。リーにはもうそれが出来ない。このことだけがとても悲しいし残念です。