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2011年03月18日(金)
『灰の人』

大駱駝艦 天賦典式『灰の人』@世田谷パブリックシアター

上演前に麿さんからのご挨拶。もう舞台に出るための白塗りをされているからでしょう、音声のみが劇場に流れました。来場者へのお礼と、我々は消えた御霊が安らかに、と言う思いを胸にただただおどるだけです、と言ったようなこと。上演に際して麿さんがお話なさるの、初めて聴きました。
(追記:全文がこちらにアップされています。テキストは拾えないよう画像になっており、しばらくするとインデックスに飛ぶようにしてあるところが“らしい”。消えてしまう、残らない。心にだけ残る。・大駱駝艦天賦典式公式サイト

ハッとするようなおどりがあった。11日〜初日迄に構成を変更したのか、11日以降の自分がそういう解釈を勝手にしたのかが判断出来ない。今しかないものを観た。

暗闇にちいさな炎が浮かび上がる。火を灯したのは壺を背負った少女(童子、妖精のようにも見えた)。我妻恵美子さんです。彼女のソロで開幕。続いて登場するふたりの男性ダンサーはいつも一緒、離れずにペアで踊り、少女と火鉢を囲み、舞台で起こる出来事を見詰め、要所要所でユーモラスなおどりを見せる。少女は薔薇の花に点火し、その燃える花を麿さんが素手で握りつぶす、火が消える。白塗りの掌は煤で黒く染まる。ぎゃっ、格好いい!

火から灰が生まれ、シンデレラのモチーフも現れる。火鉢から出て来るのはガラスの靴ではなくて下駄。下駄には“ぴったりのサイズ”と言うものがない。多くのシンデレラがきっといる。シンデレラたちはその足のサイズのように、自由に自分の行く世界を決める。お城に嫁いでいかなくてもきっと楽しい人生はあるよ?

初めて感じるような、新展開が多かったように思います。声を発する場面が多い。普段のカウントや合図としての発声である「シュッ」と言う息づかいとは別の、台詞的な音声もある。そしてはっとさせられたのはここだ。舞踏は「重力の所産」が基本で、足をしっかりと地に着け、摺り足でおどる。痙攣するような所作もある。この所作が、この日は揺れる大地と大きな波に翻弄される者の姿に見えたのだ。白塗りの顔たちが表情を歪ませる。困惑と悲しみが浮かんでいるように見えた。錯覚だったのだろうか。どちらにしろこのセクションは死のイメージに満ちていた。

しかしその後、まさしく灰が舞うようにふわりと浮く舞踏が現れる。十数人のダンサーがパイプで出来たサークルに囲まれ、ふわりふわりと舞い歩く。そのうち彼らは交互に足を浮かせていく。ふわり、ふわり。片足ずつあげて行進するその姿は重力を感じていないよう。死して灰となる、しかし灰は肥やしにもなる。風で飛ばされて行った灰はどこかの地に舞い降り、新しい命が生まれる。そうやって繋がっていく。火は命を照らす、火は命を鎮める。生まれて来るものにも消えていくものにも火は寄り添う、そうして皆灰になる。

勿論大駱駝艦ならではのスペクタクル、ユーモアはどっしり根を下ろしています。麿さんのドレスも素敵でしたわよ。ここ数年女性ダンサーさんの衣裳がとてもかわいくスタイリッシュになったような印象があって、毎回おどりとともにそれを観るのも楽しみになっています。

フィナーレは普段より短いものでした。他劇場でもそうですが、交通機関が不安定なため観客を早く帰途に就かせるべく、カーテンコールを短めにしているところが多いのです。天賦典式のフィナーレはカーテンコールにも繋がるもので、流れる曲も含めて大きなポイントなのですが、短時間に凝縮された今回のそれはとても印象に残るものでした。麿さんの合図で舞台に集まり、こちらをまっすぐ見詰め、ゆったりと礼をした艦員さんたちのあの表情を忘れることはないと思います。万感胸に迫るとはこのことか。

ご家族が被災している艦員さんもいらっしゃいます。胸を打つおどりでした。おどりには祈りがあると感じられたものでした。