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2010年08月27日(金)
『インセプション』『トリック・アートの世界展』『デレク・ジャーマン BLUE NIGHT』

■『インセプション』@新宿ピカデリー スクリーン1
いやー面白かった。しかし今観るにはひじょーに身につまされる話だった。ひとはいかに自分の見たいものしか見ないようにしているかって話ですよ。どんなにそうじゃないよって要素がてんこもりでも、そこには目を耳を塞いでるって言うね…本当は気付いているのに。と言う訳で今考えるにはしんどい。
しかし画ヅラは素晴らしく(映画館で観てこそ!)、登場人物のキャラクターも魅力的で、つーかアーサー役のジョセフ・ゴードン=レヴィットがもう気になって気になって仕方がありません。渡辺謙も格好よかったなあ。時間あればリピートしたいな。
今監督のことも思い出したりしていた。『パプリカ』はしんどいけど素晴らしい作品だった。

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■『トリック・アートの世界展 ―だまされる楽しさ』@損保ジャパン東郷青児美術館
上田薫『なま玉子』が展示されていると言うので慌てて観に行きました。何十年越しだ…やっと観られた……。ちなみに展示されていたのは『なま玉子 J』『玉子にスプーン A』『スプーンにゼリー B』。キャンバスに油彩、アクリル。嬉しかった…そしていつか現美にある筈の『なま玉子 B』も観たい。と言うか、このシリーズを一挙に見せてくれる場ってないものでしょうか。
福田美蘭の作品が5点あったのもラッキー。カタログには掲載されているのに、会場や作品の都合で展示出来なったものが何点かあったようで、それは残念。
常設のゴッホ『ひまわり』も観ることが出来ました。損保ジャパンビルの42階にある美術館は平日でも盛況、新宿上空から東京の景色を眺めてしばし休憩。

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ラフォーレのカール・ハイド展もハシゴする予定だったが流石に時間が足りなかった。品川へ移動。

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■『BLANK MUSEUM デレク・ジャーマン BLUE NIGHT』@原美術館

休館中の原美術館を使ってのイヴェント『BLANK MUSEUM』の2日目、『BLUE NIGHT』。デレク・ジャーマン監督作品『BLUE』の上映、仲西祐介さんによるブルーライティングインスタレーション、渋谷慶一郎さんとやくしまるえつこさんによるライヴ。せっかくなので?青い服を着て行きました。

・webDICE『夏の終わりフェスBLANK MUSEUM BLUE NIGHTレポート、原美術館がブルー一色に染まった夜』

17時過ぎに到着、大石麻央さんによるぬいぐるみが迎えてくれました。これどれがぬいぐるみでどれが(ひとの入っている)きぐるみかパッと見わかんなかったりする。常設展示の森村泰昌『輪舞』の近くにきつねのおんなのことおおかみ?くま?のおんなのこが立っていて、よくみるとくまちゃんはなんだかゆらゆらしている…こ、これは中のひとがいるな。じっと見るが目が合っているかは判らない。暑いよね、気を付けてと思う。上記レポートによると、このくまちゃんには大石さんご本人が入っていた模様。

中庭でライヴがあるので、カフェスペースはテーブルをとっぱらった椅子のみに。MIOさんと合流してしばしまったり。だんだん日が傾き、いい感じの夕暮れがやってくる。猛暑日ではあったが今夜は若干涼しそう。ちょっとだけ秋の気配も。そうこうするうちに上映時間が近付いて来た。4箇所のスペースで同時上映されるのでどこで観ようかとうろうろ、2FのギャラリーVに落ち着く。いきなり頭出しを間違えたか途中から始まる(笑)。隣のギャラリーIVはもう始まってる。防音している訳ではないので、隣室の音も聴こえる。上映スタートがズレたので、隣から聴こえた音が数十秒後にこちらで聴こえる、と行った具合。そんなハプニングも面白い。

『BLUE』を観たのは十数年振り。デレク・ジャーマンの遺作。エイズで亡くなった友人、死の床の友人。彼らの思い出とともに自分も死へと向かっている。作品の制作中にはもう目が見えなくなっていたと言うジャーマンが選んだ色はブルー。淡々としたナレーション、サイモン・フィッシャー・ターナーやブライアン・イーノ、エリック・サティの音楽。友人たちへ、そして自分への鎮魂歌だ。

終始美しいブルーのスクリーンには、日本での上映のため字幕が入る。どうしても字幕を見てしまうので、本国での上映形態で観てみたいと当時思ったんだった。そしてまた今監督の『PERFECT BLUE』や、バロウズの『内なるネコ』を思い出したりしていた。この世に生まれ落ちたからこそ体験出来たさまざまなことは、自分がここから去る時に何も持っていけない。しかしなんらかの思いとしてどこかに残るかも知れない。具体的に形を持つものではなく他人の思い出の中かも知れない。そしてそれは一瞬のことなのだろうが、間違いなく存在したものなのだ。送る側にも送られる側にも、何も残らないなんてことは決してない。そう思わせてくれた。

上映が終わるとすっかり夜。しばしのセッティング時間を挟み、各ギャラリーで『BLUE SCREEN』『BLUE WIND』『BLUE WALL』『BLUE SHADOW』と題されたインスタレーションがスタート。原美術館が青に染まる。ひんやりとしているけれど包まれるような感触で気持ちいい。常設展示も観て中庭に戻る。『BLUE』の音声が流れる中、ふらりと現れた渋谷さんがピアノを弾き始める。途中からやくしまるさんが参加、『BLUE』のテキスト抜粋をリーディング。

ジャーマンの声とやくしまるさんの声が交差する。繊細な音が空に融けていく。昼間から鳴いている蝉に続き、鈴虫?コオロギ?の声も加わって、品川のど真ん中とは思えない緑の中で聴く音楽はまるで真夏の夜の夢のよう。しかし表現の奥にあるものは力強く、地に足の着いたものだった。英語と日本語を交えた言葉たちは、生きることは美しく、残酷で、喜びと悲しみと怒りに満ちていることを伝えていた。

アップリンク代表の浅井隆さんのツイートによると、リーディング用に渡したテキストと違う部分をやくしまるさんが返して来たそうです。そして終演後の選曲についてはこちら。マドンナの次にはデュランデュランの「The Reflex」が流れました。エイズ禍、死への恐怖、自分の死期を悟った上での覚悟の表現には、命ある者のみが享受出来る喜びと快楽が鏡のように映っている。80年代から30年は経つが、作品たちは今でも強固で、ひとびとの心の中に残り続けている。

ふわふわした足取りで夜の道を五反田迄歩く。行ってよかった。やっぱり明日も行こう。おねがい、17時過ぎても当日券ありますように。