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2009年11月18日(水)
『FROST/NIXON』初日とか

『FROST/NIXON』@天王洲 銀河劇場

“これは、インタビューという名の決闘”

休憩なし、1時間50分。ロンドン初演も、映画も未見です。以下若干ネタバレあります、未見の方はご注意を。

いやーよかった。特に後半。序盤約10分はモノローグのみで展開され、その後も要所要所でジム・レストン=佐藤アツヒロくんの回想らしきモノローグが入ります。プログラムのスズカツさんのごあいさつで、役者には「説明的な台詞の言い方を排」することを要求したとありましたが、政治的な専門用語が多い、インタヴュー収録が始まる迄の経緯と歴史的背景を観客に把握させねばならない、そして本編のメインとクライマックスはインタヴューシーンのため、その他のパートはかなり凝縮する必要があり、時間的にもあまり尺をとれない。と言う制限があるため、やはりインタヴューに入る前迄の台詞が説明的になっている印象を受けました。なので、ここでノリ遅れるとちょっと厳しい。説明せねばならない内容を如何に説明口調にならず話せるか、と言う難題に、アツヒロくんは苦闘しているようにも見えました(演技がわるいと言う意味ではないです)。

それにしてもスズカツさんはビューティフルルーザーを描くのが巧いと言うか、好きと言うか、常に興味があるんでしょうね。こういうところはプロレス好きと言うバックボーンがあるからかも知れません。ニクソンのことちょっと好きになっちゃうぞ!頭脳戦なのに言葉の殴り合いにすら映るインタヴュー、格闘技やスポーツを観ている時のような感覚。左右に分かれたフロスト/ニクソンが座るソファの後ろには、常時ブレーンと補佐官が待機しており(=全登場人物出ずっぱり)、テープ交換のための休憩毎にふたりは陣営に戻る。アドバイスを受けたり、ハッパをかけられたり、戦法が間違っていないかの確認をする。その図式が、まるでセコンドとボクサーのよう。インタヴューは一対一なのに、まるでチームの連係プレイを観ているようでもある。両陣営ともに知力を尽くし、TVの特性を存分に利用しようとする。

フロスト/ニクソンは共にTVを利用してアメリカのトップにのしあがった人物だ。そしてふたりともアメリカのトップに返り咲くために対決している。ニクソンはウォーターゲート事件で失墜した名誉挽回のため、フロストは失ったアメリカでのTVショウレギュラーを再び手にし、アメリカで成功するため。ニクソンはインタヴューを受けなくても悠々自適だった筈だし、フロストは既に本国イギリスでは名声を得ており、アメリカであがく必要もなかった筈だ。

それでもアメリカでトップに立ちたい。アメリカが世界のトップだからだ。と言う、背後に浮かびあがるアメリカの巨大さをもひしひしと感じる作品です。アメリカはデカい。

決定的なひとことを引き出せずいらつくフロスト陣営だったが、最後のインタヴュー前夜、酔ったニクソンがフロストに電話をする辺りから様相が変わって来る。何故彼は電話をしたのだろう?ニクソンは真実を語りたかったのではないだろうか。実際彼は真実を喋るが、歴史に残ったのは事実だけだった。そして何故ジャーナリストではない、トークショウホストのフロストがこのインタヴューをモノに出来たのか?決定的な証拠を見付け出したのが、カジュアルな服装に身を包んだ、フロスト陣営ではいちばんの若造レストンだったと言うことも興味深い。

舞台の決め手は、ニクソン役北大路欣也さんの圧倒的存在感。3階席から観たのにもう釘付け。観る前はわーいいぬのおとうさんだよなんて思っていたが(ソフトバンクから花が来ててウケた)、始まったらもうニクソンにしか見えません。前述の、酔ってフロストに電話をする前迄はほんっとにくたらしい。衣裳やカメラアングルを妙に気にするところと言い、のらりくらりとダラダラ喋り本質に迫らないところと言い、嫌な政治家そのもの(笑)。フロスト役の仲村トオルさんがイラッイラ来てるんですが、もうそれも演技に見えない(笑・そこが仲村さんのすごいところでもある)。しかしそこには、TV映りが悪かったため選挙に敗れた経験や、周囲が敵ばかりの中、家族だけが味方でいてくれていたと言うことをちょっと自慢したい気持ちが見え隠れする。それを繊細な声のトーンやアクセントの変化、リズムで表現する。

インタヴューがオンエアされ、表舞台を去ったニクソンがフロストと面会し、プレゼントされた靴に喜ぶ姿は少年のようだった。しかしフロストが去り、ひとり残ったニクソンが箱から出した靴を見詰める後ろ姿―ちいさな背中は、もう第一線に戻ることはないであろう老人のものだった。一瞬にしてニクソンの一生を見たかのような錯覚に襲われる。名優と言うのはこういうひとのことを言うんだなあと素で納得。

仲村さんも自分のブレーンに見せる陽気な姿と、ひとりの時に見せる激情のコントラストが見事。皆を安心させようとしてか、一見ちゃらんぽらんなんだよね。イギリス人的な皮肉もあるのだろうか。北大路さんと対峙しても一歩も退きません。序盤はニクソンに「こんなテレビショウの司会者にやりこめられるものか」と思わせるような虚栄心の強さと野心が見え隠れしますが、最後のインタヴューの時には風格さえ漂っていた。そしてある意味“勝った”のに複雑な色を見せる表情。このひとの舞台ハズレないわー。

フロスト陣営のイギリス人プロデューサー、ジョン・バートを中村まことさん。導入好き放題(笑)もう野放しなんだねこのひとは…しかしあんなアホな登場の仕方しといて、段々え、このひと実はやり手?と思わせられてしまう。そういうところは流石です。同じくフロスト陣営のアメリカ人はアツヒロくんと、ベテラン記者ボブ・ゼルニック=安原義人さんのふたり。一触即発のやりとりに緊張感がありました。ニクソンの首席補佐官ジャック・ブレナン大佐は谷田歩さん。そうだこのひと蜷川さん演出の『タイタス・アンドロニカス』で観たよ!高橋洋くんとペアのバカ息子役だったよ!(笑)いやはや気付かなかった、役によって印象変わるわー。がめついエージェント、スイフティ・リザール役は中山祐一朗さん。なんだあの髪型は。にゃきゃやまさんとまこつさんはどこでも自由だねえ(笑)。

ミニマルで機能的な二村さんのセット、明度と彩度で色彩を表現する原田さんの照明も素晴らしかったです。原田さんの青白色大好き。横川さんの音楽もサントラ出してほしいくらい。

次回はスーツ萌え〜の話でもしようかな(笑)。パンフレットで皆さんが着ているスーツはHUGO BOSSだそうです。

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芝居の前にこの2本。

■『John Squire: Negative Afterimages』@Tokyo Hipsters Club
ジョン・スクワイアの個展。ポロックじゃなくてデュシャンみたいになってた。いい雰囲気でした

■『WITHOUT THOUGHT VOL.10 BOX』@EYE OF GYRE
表参道のMoMAが入ってるビルのギャラリー。いつもオモロいものをやっている。この日は深澤直人さんのワークショップ作品展。
おかしのパッケージばっかりやってるひととかいる(笑)木目柄の折り詰め箱を組み立てなおすとそれがお寿司載せる板(紙だけど)の台(あれなんて名前なの?あれだよ下駄みたいなやつ!)になるのが面白かったー