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2009年10月24日(土)
『真田風雲録』

さいたまネクスト・シアター『真田風雲録』@彩の国さいたま芸術劇場 インサイド・シアター

キタコレビニールシート配布、飛んでくるのは水でも血のりでもなく、舞台上に敷き詰められた泥。舞台が客席床面と同じ高さのため、入場早々泥に足をつっこんでフギャーとなっているお客さんがいました…これから行くひとは気を付けてー。

隣席の初対面のおばあちゃんと「やっぱりこれ(ビニールシート)、使った方がいいかしらねえ…」「床にかなり飛んだ跡があるので絶対使った方がいいと思います」「そうねえ」「こう、ぐるっと腰に巻いてから座るといいと思いますよ」とか話す。と言う訳で肩くらい迄ビニール被ってたんですが、終わってトイレ行って鏡見たら顔にも髪にも飛んでやんの(笑)。最前どセンターでしたからねえ…。最前列とステージの間って、1メートルもなかったし。

大ホールのステージ上に組んだキャパ約300の特設劇場、舞台を見下ろす形(最前列は舞台と同じ高さ)でコの字型に囲む三面が客席。残り一面には関ヶ原の合戦と大坂城落城の様子が描かれた壁画。その向こう側が本来の大ホール客席部分。シーンによって壁画が開閉し、ホール全体をフルに使用する演出でした。

冒頭から関ヶ原の合戦シーン。走り込んで来た役者たちは泥に足をとられて素で転び、衣裳の鎧はガチャガチャ音をたて相当重そう。初っ端からもうカオスです。しかも続いて壁画が開くと、その奥にいた生バンドが演奏を始め、いきなり全員が唄い出す怒濤の展開。この間3分もあったか?もうニヤニヤがとまらん、むちゃくちゃやん。ツカミは流石です。

そんな「ツカミの場」を用意するのは蜷川さんの得意とするところ。そしてその空間に放り込まれるのはオーディションで選ばれたイキのいい若手44名。蜷川さんには演出家のエゴと残酷さが当然あり、それは例えば絵的にノイズがほしいがための、体型や見た目がバラバラの人選だったりする。デブ要員とかガリ要員とか。そこから「それだけでは終わらんわい」とはみ出していくのは役者側のエゴで、演出家はそれを待っている節もある。このやりとりがうまく噛み合えば作品はますます面白くなる。ギラギラした役者が沢山いました。

泥だらけで奮闘する若手=兵士たちとは対照的に、豊臣陣営の上層部は客演のベテラン役者たちが主体。彼らは坊主たちが押す台車に乗って舞台上を移動する。身体どころか足すら汚すこともない。ひとめで上下関係が伝わる視覚効果も見事でした。ベテラン役者たちに混ざって、豊臣陣営にいた若手もかなりのもの。皮膚一枚隔てた内に熱情を隠し持ち、終盤それを爆発させる豊臣秀頼(鈴之助)、大野修理(遠山悠介)は、ギラギラした役者たちの中にいるからこそ、その透明感が際立っていました。

一方、客演で唯一泥にまみれて戦うのは横田栄司さん演じる真田幸村。真田十勇士たちの議論台詞が、演者の力量のバラツキによって流れがちになるところをうまく引き締め、隊の動きもまとめあげて引っ張る大車輪の活躍です。のらりくらりとしたキャラクターも魅力、慕われる理由が解ると言うもの。

十勇士の面々も、荒削り乍ら魅力的な若手が揃っており、3時間超の上演を間延びさせず、いい緊張感で演じ切っていました。皆「顔が記憶に残る」役者ばっかりだったな。猿飛佐助役の隼太さんのラストシーンの疾走はせつなく美しかった。西村壮吾さん演じる筧十蔵の影には惹き付けられた。このひとプロフィール写真とツラ構えが全然違っててビックリ。短期間で顔って変わるもんですね…。

顔と言えば霧隠才蔵役の美舟ノアさんも、劇中でどんどんおんなの顔に変化していくのが目に見えるような演技でよかったなあ。話が話なだけに女優陣が活きるシーンは多くないのですが、それでも才蔵や千姫(春木美香)はあの時代に生きる女性の強さ/弱さ、美しさを見せてくれました。秀頼を失った千姫が、ふざけたようなことを言った直後に一瞬悲しみの表情を見せるのですが、あれはすごかったな…鳥肌たった。あの席じゃないと気付かなかったかも。そういう意味では映像的な演技なのかも知れませんが、頭に焼き付くような表情を観られてラッキーだった。ステージが近い舞台ならではでした。

オーディションで選ばれた若手と言っても、プロフィールを見るとズブの素人は殆どおらず、劇団や事務所に所属しているひとが多い。逆に言うと、そういうひとたちが多いにも関わらず、ここ迄熱気のある舞台が作れると言うことで、今後がとても楽しみです。キレイにまとまった舞台に飽き飽きしているひとは是非。燃えます。

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■小ネタとしては
沢竜二さん演じる大野道犬の最期が、大衆演劇式の殺陣でニクい仕込みだった

■よこちん
どこからどこ迄アドリブなのか判らない役の生きっぷり。入道の頭をはたいた扇子が壊れちゃった時のリアクションは毎回やってるの?(笑)

■どうでもいいが
なんかバックホーンにいそうなひとたちが沢山いた(笑)どろどろやん

■ところで
バックホーンの菅波さんって福島出身なのね。で、ソウルセットの俊美くんも福島出身なんだけど、彼が以前ライヴのMCで「ウチは親父が山でいのしし捕まえてくるとおふくろがつぶして近所に配るよ☆」とか言ってたのね。なんかもう…福島のイメージが……ウチも大概田舎もんですけど、いのししつぶしたりって光景には遭遇しなかったですよ………

■それにしてもいい台詞が多かった
と言う訳で戯曲買ってきたんでこれから読みます。どこ迄ト書き指定があるかも見どころだな

■内藤さんならかなり期待出来る
この『真田風雲録』、来年兵庫で内藤さん演出でやるんですよ。うわ、観てー!!!こんなん内藤さん大好きやろ!