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2009年06月06日(土)
『LOVE 30』VOL.3

『LOVE 30』VOL.3@PARCO劇場

松重さんのブログによると、『LOVE 30』とは「30代30分3本勝負」の意、なんだそうです。で、松重さん曰く「いや、俺46だし。」(笑)

鈴木浩介さんと西田尚美さんの『エアコンな夜』、勝村政信さんと高岡早紀さんの『ピアノ♪レッスン』、松重豊さんとともさかりえさんの『しゃぼん』の3本立て。脚本は順に後藤法子さん、横田理恵さん、藤本有紀さん。演出は青年座の宮田慶子さん、音楽は稲本響さん。男女のふたり芝居でラブい話。この手の作品にはなかなか興味がわかないのだが、今回観たい!と思ったのは、個人的にキャスティングが魅力的だったからです。しかもヘンな意味で(笑)男優さんが全員『LYNX』の出演者なんですよ。初代オガワと初代エンドウ、三代目ウサミなんですよ。あーこんな裏テーマ、楽し過ぎるだろう。私が。

ついでに言うと、松重さんと西田さんは春に観た『昔の女』で共演しており、その中で西田さんは松重さんの息子を絞殺し松重さんの妻を爆殺してたんだよね…いや、役でですよ、役で。そんなふたりが数ヶ月後にラブい話で共演(別々のエピソードに出演だけど)…役者って不思議で面白い仕事ですよね……。

まあそんな訳でラブい話です。VOL.1と2では舞台を中心に活躍する脚本家がホンを提供していたのですが(特に2であかほりが脚本書いてたやつは観たかったのだが叶わず)、今回はちょっとマイナーチェンジがあったようです。横田さんはNTV『ごくせん』シリーズ、後藤さんはおーもりくんも出演したWOWOW『チルドレン』、藤本さんはNHK『ちりとてちん』、と言ったようにTV畑の脚本家。そして全員が女性。気軽に観られてちょっと心が軽くなる、ほのかな色気漂う優しい話の30分×3本でした。

ほんで皆さん(特に男優さん)役者汁だだもれの方ばかりなんですが、こういったふんわりしたお話をいい感じの抑制で演じておりました。しかし登場人物たちはそれぞれ問題を抱えており、それらがちらっと顔を出す時の表現がなんて言うか…沼みたいにどろっとしていてそこらへんは流石だなあと思った。勝村さんはああいったプライド高くてひねくれてて、でもとても繊細な役巧いよねえ。舌打ちとか、はまってる(笑)鈴木さんは皮肉屋で意地悪なんだけど、その中に時々本音を混ぜて、それをまた照れで引っくり返しちゃう表現が巧い。そして落ち着きがある。松重さんはコワモテとは裏腹に陽性でコメディが巧い、感情を隠し切るのが巧い。そしてその隠していた感情を“自分の意志で”開帳する迄の経緯を表現するのが巧い。

女優さんは個々の専売特許的な部分を存分に発揮しておりました。それがまたいい。西田さんはいつも苛立っててで不器用、でも思い切りがいい。高岡さんは妖艶で気風がいいけど実は耐えていて、本音をぽろっと出す時の弱さをかわいらしく見せる。あれは男はぐらっとくるって!そして声がいい!ともさかさんはかなりどろんとしていて、自分ではうまく立ち回ってるつもりでも弱さがだだもれのところがけなげ。

個人的にいちばん好きだったのは『しゃぼん』。ふたりの登場人物の間に流れた10年と言う時間、その間にそれぞれ何があったかの謎を少しずつ解いていき、ふたりの背景を会話で少しずつ見せていき、都会と田舎、街の風景の移り変わり、近所付き合い、家族の問題と沢山の要素を織り交ぜつつ、しかし説教くさくも口説くもならず、美しいバランスで描いていました。そして松重さんとともさかさんの絶妙のコンビネーション。笑いどころも泣きどころもあり、観ている方の感情も心地よく揺れる。超充実の30分。

箱体を使った舞台美術の転換もスムーズ。三面それぞれに美術を仕込んでおいて、転換時に面の向きを変える仕組みです。シンプルイズベスト。