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2008年06月20日(金)
『井上雄彦 最後のマンガ展』

『井上雄彦 最後のマンガ展』@上野の森美術館

平日特別ナイトチケットで行ってきました。最後の方はひとも少なくなってきてじっくり観られた。コンビニで買ったチケットを、入場の際オリジナルチケットの半券と交換してくれました。こういうちょっとした気遣いは嬉しいな。

145枚の『バガボンド』が1話分。全て描き下ろし。画法は、壁に貼った和紙に筆、水張りした和紙に筆、ケントボードにペン(基本筆だが背景に若干ペンもあったと思う)、ケントボードに筆、石膏(コンクリートかも)キューブに筆、壁に直接筆、ケントボードに鉛筆、と言ったところか。数点、下書きのままらしい鉛筆描きのものがありました(鉛筆描線を完成形にしたものとは感じが違う)。これはタイムアップだったのかな。鉛筆以外の画材は墨。数箇所意図的な彩色があります。それ以外はひたすらモノクロの空間。

「マンガを展示する」、と言う企画には「定形から脱したい」と言う狙い、と言うか願いもあったように思いました。誌面に印刷するマンガ原稿はサイズが決まっている。印刷が前提にある=濃淡が線数や網に置き換えられる。今回の展示作品は、通常のマンガ原稿の定形サイズから、美術館の高い天井迄届くような巨大サイズ、両手に納まりそうな変形サイズと様々。そして墨絵の繊細な濃淡を肉眼で観ることが出来る。墨の水分で和紙に皺がよったり、伸びたりしているところも直に観れる。照明は暖色系、若干落とし気味で、ポイントによって明度も違う。ひっそりとストーリーを追える快適な空間でした。

誰も死後の世界がどういうところか知らない。そんなところに行けるなんて、面白そうじゃのう。

そう、やっぱりストーリーが素晴らしくて。井上さんて画力そのものもホントものっすごいけど、「ストーリーを見せるための」画面構成とデザイン演出がズバ抜けている。やっぱりマンガ家なんだなあと思うと同時に、マンガ家って凄まじい総合芸術だと改めて思いました。そしてそれを絶妙に配置構成した空間デザイナーの方の仕事も素晴らしいと思います。最後のセクションルームに入った時は思わず立ち尽くした。ここはひとが少なくて本当によかったなー。数秒だけどひとりっきりで観ることも出来たし。こういうふうにマンガと対面出来る体験はなかなかない。行ってよかった……(涙)

そうそう、木刀が置かれているところがありますが、近付いて隅々迄観るといいですよー。本物ではないらしいですが、ギョッとさせられます。こんなところに迄演出が!

あっ、ひとつ不思議なことが。写植(台詞とか)が貼り込まれたものじゃなかったの。どの紙にも、直接刷られてた。あれどうやったんだろう?先に写植部分をシルクか何か(いやでも見た限りシルクじゃなかったっぽい…)で刷っておいてから絵を描いたのかな。『いのうえの 三日月篇』でもそのことに触れていたけど、実際どうやったかは内緒みたい。『いのうえの 満月篇』で種明かしされるかなあ。予約受付中だったけど価格未定ってのにビビッて申し込みしてないんだけど(笑)

周辺をぶらりとして帰宅。夜の上野公園もいいもんですな。