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2008年05月08日(木)
『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』

『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』@アミューズCQN シアター2

席に着いて、なんとなくスケジュール帳を開いて、明日だと思っていた『新宿ミーティング』(ヤマジ、俊太郎、波多野裕文)が今日だったと気付く……ぼんやりしたまま暗転。ここ最近のボケッぷりはホントにあかん…このままだときっといずれなーんかやらかす……あかーん(泣)

んが、『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』。超重量級!ふらふらになって映画館を出ました。おおお、PTAはどこへ行くんだ!てか、こんなとこ迄来ちゃったのか!クラシックのふりしてホラーです。いや、ホラーがクラシックなのか?やっぱり生きてる人間がいちばん怖いよー!『シャイニング』とか『フルメタル・ジャケット』思い出しましたよ…狂信的な人物が出てくるとこといい、双子が出てくるとこといい、音楽の使い方といい。そして同時にコメディ。怖いとおかしいは紙一重。本人たち真剣だから尚更。

ストーリーはシンプル。体感時間は短い。しかし情報量はかなり多く、登場人物の心理はとても複雑。濃いです。以下ネタバレあります、未見の方はご注意を。

ダニエル・デイ=ルイスの奥行きのある演技の効果か、ダニエル・プレインビュー(役名もダニエルなのね)が理解出来ないごうつくばりの怪物には見えないのです。だから憎めない。あんなに立派な家に住んでるのにちっとも幸せそうじゃない。家の中にボーリングのレーンがある(!)のにちっとも楽しそうじゃない。この家だって晩年になってからようやく手に入れたようだし。ああ見えてとても努力家。自分の手腕で富を得たプライドもある。だからスタンダードオイルの連中には異様な敵意を示す。おりゃー買収も掘るのも自分ひとりでやっとんじゃ!てな感じです。ここらへんもクラシックと言うか昔気質。

この時代では珍しくないのかも知れないけど、文盲迄はいかないにしても多分あまり字が読めない。聴力を失った息子とコミュニケーションをとるには、まず筆談を使いそうなものなのにそうしないし。まあその時はまだ息子も教育を受けていないようだったけど、戻ってきてからも手話の通訳を置くし。弟の日記をさかさまに読んでいたし。その後「弟」を殺して日記をまた眺めて泣くんだけど(唯一の泣くシーンだった?)、その時も内容を全て読めていたかどうか…「My brother」は理解出来ていたようだけど。

大地の血=石油、洗礼で示されるイエス・キリストの血、血縁者、油井での事故で命を落とした者の血、そして最後に流れる血。タイトルにもあるブラッドは何度も顔を出す。ダニエルは血縁者を求めているのにそれに該当する人物は周囲にひとりもいない。石油を信じ、神を信じず、ひとを信じない。そして実際、ここには神はいない。牧師イーライ・サンデーも神を信じてはいない。だからああいう結末を迎える。やー、やつのうさんくささと言ったらなかったな。『マグノリア』のトム・クルーズ然り、PTAは徹底してこういうとこおちょくるなあ。ちなみにそのキモい牧師を演じたのは『リトル・ミス・サンシャイン』で主人公のお兄ちゃん役だったポール・ダノ(このひとも二役でイーライと「ポール」を演じてました)。いや最初あのお兄ちゃんて気付かなくて「この顔どっかで…」と思ってて、ハイテンション説教の大声で「あ、あの『ファーーーーーック!!!!!』の子だ!」と気付いた。デイ=ルイスに喰われかねない役ですがなんのなんの、がんばってました。やー、このひといいわー。声も好きだ。

信仰の滑稽さとおぞましさ。何かを信じるってのはよりどころでしかないのか?しかしそうとは言い切れないシークエンスがところどころにあるからまたやっかい。石油が噴出するシーンの美しさとおっかなさは、こいつを信じて人生を賭けてみようと思わせる魔力がある(カエルを降らせた監督だけに?(笑)こういうとこの画作りは素晴らしいなあ)。ダニエルと息子の楽しそうな風景もね。よく頭なでてるし(これ大事)。この幸せな風景は間違いなく存在したものなんだ。うー(泣)そうそう、息子役のディロン・フレイジャーがすんごくよかった!何あの顔!初演技とは思えねー!基本無表情なのにものっそい存在感です。夢に出そう。すごくかわいいの。

ジョニー@レディオヘッドのスコアは耳障りギリギリの迫力。意図的に音響もデカい。冒頭の全く台詞がない10数分(もっとあったか?)の不協和音、息子が聴力を失う原因になった事故のシーンの、壊れてると同時に整然としたリズム。どれもが切迫感溢れる凄みに満ちていました。独立したサントラとして楽しめるかは微妙ですが、映画にはガッツリ合っていたと思う。

PTAの作品には父子間の確執が出てくるけど、今回はベクトルが逆だった。これ迄は息子が帰ってきてたけど、今回は出て行ってしまった。エンドロールにロバート・アルトマンに捧げるとのクレジット。今回群像劇ではなかったよね。訣別でも和解でもないけれど、PTAが次にどういったものを撮るのか、楽しみでもあり怖くもあり。

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■よだん
ダノくんに似ているきかんしゃ。
『There Will Be Blood: Thomas the Tank Engine Edition』

きかんしゃトーマスってマジで怖いー(泣)

■よだん2
サタデーナイトライヴでのパロディ。
『Milkshakes: There will be milkshakes for old men』

ああっ『ノーカントリー』まだ観に行けてないよー!(泣)