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2007年02月03日(土)
『コリオレイナス』

『コリオレイナス』@彩の国さいたま芸術劇場 大ホール

いんや面白かった…シェイクスピアの中ではあまり有名な作品ではないので上演の機会が少ないらしいけど、これめちゃめちゃ現在にハマる話です。場所も時間も選ばない作品。きっといつ上演しても面白く観れる、現場感、危機感を持って観られる。そしてどんな演出をも受け入れる器の広い作品だと思います。以下ネタバレ。

それにしても、日本人で翻訳劇を観ると言う立場を考えるに、蜷川さんの演出でシェイクスピアの作品を観ることが出来るってのはホントラッキーだなと思う…こんな何でもありのシェイクスピア、なかなか他では観られないのではないか。衣裳は和+モンゴリアン、殺陣は日本刀と槍でセットは四天王像に仏画に般若心経ですよ!コリオの亡骸は木魚とお経に送られて退場!こーれーがーどっパマりです!ああっ文字面にしたらとても妙ちくりんな舞台みたいだが、素晴らしいんだよ!信じてくれよ!あれ、それとも私の書き方が悪いんだろうか…うまく表現出来んもんだろうか……(泣)

戯曲を舞台に立ち上げ、そのキモを観客に伝える為には手段を選ばないと言う覚悟すら感じました。正に「どんな手段を使ってでもコリオレイナスを殺す」と宣言したオーフィディアスのようです。勝村さんは「本当はすんごく好きなんじゃねぇのかい?コリオレイナスの事」と言っていたけれど、蜷川さんは演劇を愛しているからこそ何が何でもそのストーリーを伝える演出を提示するのだと思う。

で、それが決してこけおどしになっていない。スライド式の背景で移動を表現したり、装置の主体が階段で、それが元老院の並ぶ雛壇にもなり、ローマ市民が井戸端会議をする街路になったりするのは、蜷川さんの演出としては珍しい手法ではない。しかしそれらのアイディアが、まるで今回の舞台で初めて起用されたかのように新鮮にハマっています。鏡も最近よく使っているが、『マクベス』『オイディプス王』の時とはまた違う提示の仕方でありながら抜群の説得力で、冒頭自分達の姿を映し出された観客は、これから始まる物語が自分の側で起こりうることだと突きつけられる。

こういうの観ると演劇におけるリアリズムなんてなんぼのもんじゃいとか思い知らされる…。ストーリーを伝える演出力と、役者の身体そのものがリアルであることがどんなに大事なことか。逆に具象でやるなら徹底的にやらんかいと言う話です。蜷川さんはどちらも出来る。

ちょっと茶化したシーンで、マーシアスとローマ市民が記念写真を撮るシーンがあったけど、笑った反面鋭いなあと感心もした…ほら、勝手に写メ撮ったりなれなれしかったりする連中てホント腹立つじゃん!他にもビビッて逃げ出した市民兵たちが、マーシアスが勇敢に闘って落としたヴォルサイで嬉々として略奪を行う描写があり、そらマーシアスもこんなやつらにお願いして票を稼ごうとは思わないわなーと…。民衆の愚かさ、呑気さ、狡猾さがしっかり描かれていたのは見事でした。これがないとマーシアスはただの癇癪持ちに見えてしまう危険性がある。

そんな感じで随分マーシアスに肩入れして観てしまいましたよ…。愚かなことはズバッと愚かだと言っちゃうし、民衆の気持ちは解らないし、ヴォラムニアの説得で祖国を攻めるのは止めよう…と思った途端に死が訪れる、自分で選んだ道の筈なのに民衆、血族、手を結んだかつての敵将に翻弄されっぱなしの人生ですよ…ものっそい悲劇だよ……。

そうそう今回翻訳もすごくよかったと思う。この新訳出版されないのかな?「彼は戦場で育ったので心がそのまま口なのだ」とか「彼はこの世で生きるには高潔過ぎる」とか、何て素敵な台詞だよ!詩的ですらある!しかも出演者の皆さん滑舌も台詞回しもリズム感も絶妙なので、多少難しい台詞でもするする頭に入るし理解度も高い。

そう、演出についてばかり熱く語ってしまったが、役者陣が素晴らしいのです!あーもう皆すごくて誰のことを書けばいいんだよと言う感じだ…唐沢さんと勝村さんは勿論(いやもうこのふたりは貫禄といい台詞の力といい殺陣といい…愛憎入り交じったエロティシズムすら感じました)、白石さんのモーレツ母ちゃん(いやもうすごかったですよ…豪傑!)、鋼太郎さんのあれだけマーシアスの側に立って振る舞ったのに最後拒絶された時の落胆と自嘲の表現も素晴らしかった。民衆を演じたカンパニーも!誰ひとりとして「その他大勢」に埋もれない。ひとりひとりの人生があるからこそ、この物語の悲劇性が伝わる。

先日観た『ロープ』のことをちょっと考えました。群集がとても重要な位置を占める。ロープの外にいる彼らの判断は正義かそれとも過ちか?戦争が起こると、外でどんなに八百長が行われても、リングの中ではガチンコで闘うしかない。血も出る、死ぬこともある。群集は無責任に迎合するが、それによって死を招くこともあるのだ。ロープの外にその力が及んだ時に気付いても遅い。あっ、死ぬ、と思った時、自分は既にリングの中にいる。

ところでコリオレイナスと言えば、アルメイダ劇場の来日公演でかかった作品。演出はジョナサン・ケント、タイトルロールはレイフ・ファインズですわよ!オーフィディアスはライナス・ローチ。ぎゃひー何で観てないんだ私!(泣)観たかった…。プログラムで唐沢さんが「コリオレイナスは歴代マッチョな俳優が演じてきたらしい」と言っていたけど、ファインズさんもマッチョではないよね。レッドドラゴンでは鍛えてガチッとなってたけど。

どうでもいいがこりおれいなすを一発変換すると必ずコリ俺イナスと出る…ハマッてて笑える……。

はー熱く語り過ぎてまとまりがありません、バタリ。