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2005年06月11日(土)
『近代能楽集』

『近代能楽集』@彩の国さいたま芸術劇場 大ホール

「卒塔婆小町」「弱法師」の2本立て。2001年のコクーンでの上演は観ましたが、若干キャスティングが違います。

なんて勿体ぶってもな…。はい、「卒塔婆小町」の詩人役が高橋洋さんなのです。2000年に彩の国で上演後、翌年コクーンで上演された演目ですが、諸事情ありましてコクーンでは詩人を横田栄司さんが演じました。同じキャスティングで観られると思っていたので、がっくりしたと言う思い出がありまして…。しかし横田さんの詩人は素晴らしい出来で、これは観て良かったとホントに思いました。

で、今回念願の高橋くんの詩人役を観ることが出来ました。プログラムでも触れられていましたが、高橋くんは死ぬ役を演じることが多い。しかも若くして、志半ばにして死ぬ役。思いをこの世に残す、と言えば聞こえがいいが、この世に未練たっぷりで死んでいく、とも言える。

劇中で詩人は自分の死を受け入れる。それはまた100年後に小町に逢える、逢ってやると思っているからで、それって一途で美しい思いにもとれるけど、ストーカー並に怖いことでもある訳です(笑)

そのギリギリ感が出ていて良かったなあ。正気と狂気を行ったり来たり。酩酊しているけれど明晰。くるくると態度が変わり、瞬間瞬間を生きている。刹那的でありながら、きっと100年後も現れる。しかし詩人は何度現れても99夜を超えることは出来ない。椿のように、ぼたりと地に墜ちる。

あ、やっぱ怖い。小町はずっと待たなければいけないのかな。公園で、ベンチに座る恋人たちの邪魔をしながら、シケモクを拾い続けるのかな。

幕間にジェンヌより、大本の小町と深草の関係についてレクチャーを受け、ますます怖くなりました(笑)小町はまた深草が現れるのを待つために100年生きる、ととるか、深草があんなことを言って絶命したためにまた100年生きなければならない、ととるか。

そう考えると、「人間は死ぬために生きているのじゃございません」「誰にもそんなことはわからない、生きるために死ぬのかもしれず……」と言う言葉がとても美しく、反面とても恐ろしく聞こえる。

壤晴彦さんすごかったー。20歳に戻りダンスを踊った小町がまた99歳の老婆に戻る時の仕草の変化。恐ろしかったし、悲しかったです。恋人たちを演じた男優陣もステキでした。月川くんの女形はホント素晴らしいですわ…お嬢!

+++++

「弱法師」は、桜間役が高橋恵子さんから夏木マリさんに。

藤原竜也くんは、5年前の俊徳が成長した姿、のように見えました。見かけが大人になったから、と言うこともありますが、その分妖しさも増した。20歳の男を生みの親と育ての親がとりあうと言う、ちょっと異様な光景が視覚的に解りやすくなった印象。親にすれば確かに子供ではあるけれど、そして盲目で、何かと心配なのだろうけど、20歳ですよ。いい大人です。俊徳の振る舞いも、20歳と言う年齢からすると結構ヤバい。

そのいびつさが不気味だったし、少年と青年の間にいるような俊徳が、桜間に「ちょっとしたお願い」を聞いてもらう図式がとてもエロティック。夏木さんも、清楚な和服を着ているのにとてもセクシー!うわー今タブーを観ているよ!と思わせられるドキドキ感が良かったなあ。

しかし以前観ていたと言うのにラストの演出を忘れていた。あれはインパクトありますな…壁面のセットが落ち、裸舞台になる。そこに三島由起夫の自決前の演説が流れる。三島は「世界の終わり」を見たのだろうか。

照明と美術は毎回のことながら素晴らしかったですうー。色!光!湿度さえ変わるような!

余談。帰り道の銭湯前に真っ白なねこがいました。「弱法師」で俊徳が着ていたのが真っ白なスーツだったので、「うわ〜俊徳だよ〜」と散々触り倒しました。またこれが好きなだけ触らせてくれるねこで。なのに目が反抗的で。ああきっとこの子は「僕ってね、どうしてだか、誰からも愛されるんだよ」と言うよ!(笑)いいタイミングでいたもんだなあ。