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2002年09月16日(月)
『セプテンバー11』

『セプテンバー11』


2001年9月11日のアメリカ同時多発テロを題材に、国籍もキャリアも異なる11人の監督が、同じ時間数(11分9秒1)の短編を制作したオムニバス作品。

しかしこれの上映順、今村昌平監督が最後だったのは、日本で上映されたから?他の国では順番がまた違うのかな。ええい正直に言うぞ、この作品で幕切れってのはどうよ!公共広告機構のCMかい!って言う。いや、ACだってもっといいもの出すだろうよ。ここ迄言うか、言うよ。もう「はあ!?」って椅子からずり落ちたよ。

話的には悪くなかったと思うのだ。人間ってヘビより愚かなのねと言いたいのも解らないでもない。それはいいんだけど、あのオチは何じゃ!“オチ”って言いたくなるよあのナレーション、その口調、あのテロップ。なんじゃこれは!あんだけ豪華キャスト組んどきながら。今村監督の作品をあまり知らないのでこういう事言う資格はないかも知れないが、これはあまりにもあんまりだ。て言うかあの“オチ”でそれまでの10分ちょっとが台なしだ。いろいろ言いたいがなんかそれを言うことすらアホらしくなってしまう程度のオチだ。結構…その…呆れましたよ。なんの為にその10分を費やしたのか…本当に“あれ”で、作品1本が台なしだ。

ちなみにトモロヲさんは素晴らしかったですよ。マジにヘビでした。ネズミ喰ってる姿には往年の「***食べたら40万円」を思い出しました。国営放送でナレーションやってたって、某カード会社のCMでいいパパを演じてても騙されないぞ!(笑)

ああもういいや。他の10本の話をしよう(泣)。

テーマは9.11だが、やはり自国の出来事に照らし合わせて撮っている監督が多い。

1.サミラ・マフマルバフ(イラン)
イランで暮らすアフガニスタン人が、アメリカの報復攻撃を恐れてシェルターを作っている。作業の為学校に来なくなってしまった子供たちを、女性教師が迎えにくる。学校へ集まった子供たちに、教師はWTCのテロのことを伝えようとする。
しかし子供たちにとってはシェルター作りより、アメリカの攻撃よりも、今朝作業中に井戸に落ちて死んだおじさんのことの方が気になる。教師は高い高い煙突のふもとまで生徒を連れて行き「これくらい高い建物が破壊されたのだ」と言う。子供たちはやっと事の重大さを感じいり、煙突を見上げて静かになる。
子供がめっちゃかわいい。反則と言えば反則だが、やっぱりこの子たちの活き活きとした表情を守らなければと思わせる。

2.クロード・ルルーシュ(フランス)
これは巧い!短編の醍醐味が味わえます。
N.Y.のフラットに暮らす聾唖のフランス人女性と、ツアーガイドのアメリカ人男性。男は手話でツアーのガイドをする仕事に就いており、それで彼女と知り合ったようだ。ふたりは仲たがいをしている様子。前夜も喧嘩をし、別のソファで寝ている。写真家の女は、眠っている男の顔を撮る。一夜明け、男は仕事に出て行く。今日のガイド先はWTC。2001年9月11日当日のことだ。
部屋に残った女は、男への別れの手紙を書き始める。手紙を書いている途中、飼っている犬が騒いで脚にまとわりつき、電灯が消えたり地響きを感じたりする。彼女は耳が聞こえないので、外で何が起こっているか判らないのだ。別の部屋でつけっぱなしになっているTVに、WTCが崩れ落ちるシーンが映し出されている。間もなく砂塵まみれになった男が帰ってきて、女は驚く。
11本の中で唯一政治的な事象を排除して描かれている。しかし個人あっての社会だからね。主人公の立場を考慮しての、音を殆ど入れない演出も見事でした。

3.ユーセフ・シャヒーン(エジプト)
うーん、まあ普通。なんかミュージカルじたてになってましたよ。正論なんだけど、教科書みたいだった。幽霊に説教されてもなあ。「そうですねえ」としか言えないと言うか…。独立して観ればそれなりだったかも知れないが、11本の中では弱い。

4.ダニス・タノヴィッチ(ボスニア=ヘルツェゴビナ)
『ノー・マンズ・ランド』の監督。ああこれ観たかったのに逃してるんだよ!今回の制作依頼が来たのも頷ける。
ボスニア人らしき女が、いつ故郷へ帰れるかの予測もつかないのに引っ越しの荷物を解こうとしない。毎月11日になるとデモに参加しているらしいが、今月は例の9.11だ。仲間の女性たちは「こんな日にデモをやっても…」と言う。しかし主人公はデモへ出て行き、やがて仲間もそれに続く。
うー、こちらの知識不足だ、申し訳ない。ボスニア=ヘルツェゴビナの細かい背景が判らない。せめてデモに使われていたメッセージボードに字幕を入れてほしかった。
正直日本からは、このボスニア問題は馴染みが薄い。UKのチャリティアルバム『HELP』からの知識が多少あったおかげで考えることは出来たが。『HELP』が出たのは1995年。今年2が出る。つまりこの紛争は今でもずっと続いている。

5.イドリッサ・ウェドラオゴ(ブルキナファソ)
これは爽快!語弊があるかも知れないがすごく面白かった。
貧しくてお母ちゃんが病気で働かなくてはならず、学校に行けなくなった男の子が主人公。彼はある日新聞を売っていて、あのオサマ・ビンラディンを目撃する。んなわきゃあない(笑)。しっかし似てるわけで…男の子はお金がほしい訳で…ビンラディンには2500万ドルの懸賞金がかかっているわけで…。そりゃ捕まえるっちゅうねん。男の子は友達を集め、ビンラディン捕獲の計画を提案する。
ビンラディンが悪いひとだからとか言うんじゃなくて、男の子たちは単純に懸賞金が欲しいのだ。計画が失敗に終わると、「じゃあ今度はブッシュが来た時に」とか言ってる(笑)どっちでもいいんだね!
勿論彼等が貧しいことは、今回のテロと無関係ではない。そんなブラックさを感じさせながらも、微笑ましい(そう、笑えるのだ)モチーフで最後迄持って行ったこの手腕はお見事。

6.ケン・ローチ(イギリス)
1973年の9月11日にチリで起こったクーデターをテーマにしている。アジェンデ大統領の暗殺→政権交替→ピノチェトによる独裁政治の恐怖を、ドキュメント映像を交えて追っていく。政権が変わり母国を追われた男が、アメリカの同時多発テロの遺族へ手紙を書く。その悲しみが解る、と。
正攻法でいて説教くさくない。しかし今回のテロとチリ政権の事情もはっきりさせている。11分の枠でこれだけの情報量を、きちんと自分の思いを込めて表現出来るのは凄い。圧倒されました。


TVはここでひと段落。続きは次回。