| 2005年03月18日(金) |
秦 河 勝 連載31 |
大三輪逆は敏達天皇が生前皇后の炊屋姫と皇位継承に関して交わした次の会話を先帝の遺命であると心に刻み日記に記録したことを今思い出していたのである。 「朕の崩御後は、皇位継承の古来の慣行に従い兄弟相続を第一原則とし、第二原則としては兄弟が老齢で激務に耐えないとき若しくは幼少のときは先帝の直系の皇子に皇位を継承することにしたい」と敏達天皇が言われた。 「そうしますと次期天皇候補者はお上の異母弟の橘豊日皇子になりますね」と炊屋姫が質問した。 「その通りだ。そなたの同腹の兄上が、天皇になれるのは喜ばしいことであろう」 「お上のご配慮に御礼申し上げ、感謝致します」 「母親の格、本人の年齢からいえばこれが一番納得できる選択だと信じているよ」 「その次はどのようにお考えでしようか」と炊屋姫は自分が腹を痛めた竹田皇子の顔を瞼に描きながら質問した。 「橘豊日皇子がそんなに早く亡くなるとは考えたくないが、もしそのときは、年齢、母たる皇后の格からいって第二原則を適用して押坂彦人大兄皇子が適任であろう」 「第二原則の時、竹田皇子は如何ですか」 「チャンスはあるが押坂彦人大兄皇子のほうが年長者だから第二候補ということになる」 「でも押坂彦人大兄皇子は病弱ですわ」 「押坂彦人大兄皇子が亡くなれば竹田皇子と厩戸皇子が有力だ」 「第一原則適用の時、穴穂部皇子はどうですか」 「橘豊日皇子が長命であれば、穴穂部皇子のほうが押坂彦人大兄皇子よりだいぶ若いからチャンスはあるだろう」 「でもあの皇子は下品だから駄目ですわ」 「そのときには泊瀬部皇子か宅部皇子がいる」 「母親が小姉君ですわ」 「欽明天皇の妃であったから格式では問題がない」 「小姉君の系統が天皇になるのは我慢なりませんわ」 「堅塩姫と小姉君は同腹の姉妹だよ」 「女の姉妹は対抗意識が男より激しいものですわ」 「そういうものかね。それではその時はそなたが先帝の皇后として即位すればよい」 「女が天皇になった先例はありませんよ」 「それでは第三原則を作っておこう。第一原則、第二原則でも選定できないときは先帝の皇后が即位するということだ。このことは、私の遺命として大三輪逆に記録させておこう」
|