| 2005年03月17日(木) |
秦 河 勝 連載30 |
穴穂部皇子は異母妹にあたる炊屋姫にかねてより想いをかけていたが、炊屋姫が敏達天皇の后として入内してからは、相聞歌を贈ることもかなわず片思いに終わっていた。殯宮で悲嘆に暮れている炊屋姫にお悔やみを述べ、慰めるとともに長年の思いもぶつけてみたいと考えた穴穂部皇子は使いを出して、弔問の意を伝えようとしたが、大三輪逆の手のものが、粗野な野心家で通っている穴穂部皇子の下心を見抜いて取りつがなかった。使いの者から門前払いの扱いを受けたとの報告を受けた時、皇子のプライドはいたく傷つけられるとともに疑心暗鬼を生じた。自分が皇位継承で破れたのは炊屋姫が反対に廻ったからだという思いにかられ、憎悪が嵩じた。
用命天皇の次の天皇候補者は敏達天皇の皇子の押坂彦人大兄皇子にいくであろう。そうなると小姉君系の皇子が天皇になるチャンスは薄くなる一方である。ここで一騒動起こして、世の注目を引いておかなくてはならないという思いも心の隅に潜んでいた。殯宮に押し入りやるかたない憤懣をぶちまけるとともに長年の思いを遂げようと行動に移した。
穴穂部皇子は自ら手兵を率いて殯宮に赴き、門衛の兵士に尋ねた。 「この宮門を守っているのは誰か」 「大三輪逆がお守りしています」と門衛は答えた。 「門を開けよ。私は皇子の穴穂部皇子だ。殯宮の庭で誄(しのびごと)を読み上げ皇太后にはお悔やみを申し上げたい」 「主命により開けられません」 「主とは誰か」 「大三輪逆です」 「臣下のくせに皇子に対して無礼であろう。早く門を開けよ」 「開けられません」 このような押し問答が七回も繰り返されたが、門は遂に開かれなかった。炊屋姫の寵臣大三輪逆が敏達天皇の遺命を帯して護衛の兵士達に殯宮の門を固めさせたからである。
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