| 2005年03月13日(日) |
秦 河 勝 連載26 |
「仮に入内がうまくいったとしても、皇子が生まれるかどうか判りませんよ」 「秦一族の場合は女で子を生まなかった者は今まで一人もいなかった。とにかく入内することが、今一族にとって一番大切なことだ」 「父上、玉依郎女を入内させて、皇子が誕生したとしてもその皇子が天皇に必ずなれるという保証はないのですよ」
「それはそうだが、入内できなければ何事も始まらない。経済力では蘇我氏にも物部氏にも決して劣らない。ただ官位だけが不足しているのじゃ」 「父上、官位が欲しいお気持ちは分かりますが、考えてみて下さい。大伴氏や物部氏等の連姓の氏族は、天地開闢以来天皇家の臣下であることが運命づけられていますから、彼らの娘達は皇后や后にはなれなかったでしょう。我等秦氏は帰化人だから土着の豪族蘇我氏とは格が低いと見做されているのですよ。とても玉依郎女が入内出来るとは思えませんがね」
「なに、秦氏の先祖は秦の始皇帝にまでたどりつくのだ。帰化人とはいえ、格からいえば天皇家に匹敵する筈だ。ましてや、地方の一豪族であった蘇我氏よりも由緒ある氏族だと思うよ。だからこそ、秦氏の実力を認めさせるためにも、秦氏から皇后や后を出して、天皇家の外戚にならなければならないと思う。 私の代で実現できなければ子孫の代には是非実現してもらいたい。これは、私の悲願であり、子孫に語り継いで貰いたい一族の目標であると思ってくれ」
「お言葉を返すようですが、私は秦一族は政治には関与しない方が賢明であろうと考えております。政治に関与するとどうしても皇位継承権を目指して血生臭い争いの中に巻き込まれてしまいます。政権争いに負けると一族全員が破滅するか地獄をみることになると思います。葛城氏、平群氏、吉備氏、大伴氏等不幸な例は沢山あるでしょう。むしろ政治には直接関与せず、経済の面で力を蓄え、祭祀を司るほうが、子孫の繁栄に繋がると考えます。そしてお寺を建てて、仏教を広めるのです」
「お前は未だ若いのに闘争を恐れてどうする。農耕、養蚕、機織、醸造、土木とあらゆる分野において、第一の力を蓄えている秦一族が何で政治の面でも第一人者となれないのか。挑戦してみるがよい。私の言いたいのはそういうことだ」
「父上のお考えはよく分かりました。御期待に添えるように努力してみたいと思います」 「それにお前も、深草の大叔父の勧める娘を早く娶って私の目の黒いうちに孫の顔を見せてくれ」 「承知しました」
河勝と国勝親子の間でこのようなやりとりがあってから、数日後に国勝は流 行病に侵されて死亡した。
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