前潟都窪の日記

2005年01月04日(火) 国税局の査察��

 待たしてあったタクシーで自宅まで帰ってくると既に自宅の中には四人の捜査員が会社に入ったと同じ時刻に乗り込んできて、書斎の机や本箱の中を引っかき廻していた。
「パパお帰りなさい。朝からこうなんですよ。会社の方も大変でしょう。連絡しても電話をかけさせて戴けないのよ。急病人でもでたときにはどうなるんでしょう。連絡できなくて死んでしまったりしたら責任をとっていただけるのかしら。人の命は弁償のしようがないと思いますけどね。それに由紀は受験中だというのに勉強もできないんですよ。入学試験に失敗して浪人でもするようなことになったらかわいそうだわ」と妻の田鶴子も家宅捜査でかなり、気分を壊したらしく捜査員に間こえよがしに皮肉を言って訴える。
「心配しなくてもいいよ。何も悪いことはしていないんだから。何もでてこない所をつつくよりも、住宅金融専門会社の不良債権にまつわる不正融資を徹底的にやってもらいたいものだね」と勇も鬱憤をぶっつけるが相手は反応を示さない。

勇は会社の方はどうなっているのか気にかかるところだが、電話はかけさせて貰えないし、取り次いでももらえないのでさっぱり状況が掴めない。
「都窪さん、この印影はみたことがありますか」と紙切れに押した「中山」「佐藤」という印影を勇の目先に突きつける。その印影は見たことがある。溶接工の免許証の期限を更新するために溶接工から預かって手続きをしたとき使った覚えがある。
「さあ、見たことはあるような気もしますが」と反応を窺ってみる。
「その判子は何処にありますか」
「本人が持っているでしょう」
「中山、谷山、佐藤という苗字はありふれたものだけど、この判子の持ち主はいますか」
「実在してますよ」
「何者ですか」
「溶接工ですよ」
「この判子を使って架空の外注費を引き出していたのではないかね」とその捜査官は勇が架空外注費を作りだして、会社の金を横領しているのではないかというような言い方をする。
「何を。失敬な。でたらめを言うとただでは済ませないぞ」
「この判子があなたの机の引出しから出てきたのは何故ですか」
「免許の更新手続きで預かったままになっているんですよ」と勇は答えたが内心これは大変なことになったと思った。迂闊だった。判子は本人に返しておくべきだった。

「先程までの調べでは、外注工事代の領収書は大半のものが銀行振込になっているから辿っていけば金の流れは判る。しかし幾つかの領収証にはこれと同じ印影が押されている。しかもその判子があなたの机の引出しからでてきた事実をどう説明してくれますか」
「それは、溶接工達は一人者が多く、昼間働いているので銀行ヘ金を下ろしに行く暇がないんですよ。だから、現金で払ってあげている。そのため領収書があるんですよ」
「なるほど、巧く考えたね、だけどこの程度の判子なら何処にでも売っているから簡単に手に人る筈だ。中山、佐藤、谷山という溶接工が実在するかどうかを確認してみなければあなたの容疑は晴れないね」勝ち誇ったようにその捜査官の態度は横柄になってくる。
「ほかにも、これに類したものがあるはずだ。押収した資料ももうそろそろ局の方へ届く頃だから局ヘ一緒に行ってもらってゆっくり説明を聞くことにしようじゃあないか」と捜査官は腕時計を見ながら言った。勇が時計を見ると既に正午ちかくなっていた


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