二つ目はやはり西寮の南棟寮生達がコンパの後、ストームをかけてきたのであるがその中のT君が酩酊して酒乱の状態になっていた。手当たり次第窓ガラスを割るわ、個室の扉を蹴って壊すわ、消火器を放射するわで手がつけられない。皆呆然としてなす術を知らず彼の暴れるのに任せている。この時北棟寮の総務をしていた勇はこの場を収録するには彼を縄で縛りあげるしかないと判断して彼の後ろに回り羽交締めにした。打合せをしておいたK君がロープで両手両足を縛り上げたのでT君も暴れようがなくなりやがて眠りだした。
この二つの事件は卒業してからも寮友に手荒なことをして申し訳なかったという心の負い目になっていた。ところが卒業後の初めての寮の同窓会で思い出話のついでにこの事件のことを話題にしてO、Tの両君に手荒な行為を今更のように謝ると二人ともそんなことがあったとは全然記憶に残っていないというではないか。それを聞いて心の荷が下りたような気がするとともに酒は自我を忘れるまで飲んではならないと自戒したのである。
これまた西寮の頃のことであるが時の総長平沢興先生の官舎へストームをかけたことがある。応援団団長で羽織、袴をまとい蛮カラぶっていた井沢君が総長にアポイントをとっておいたから応援団の二回生の部員と西寮の委員とでストームをかけようということになった。井沢、池田、春日と勇、後何人かいたと思うが名前が思い出せない。
総長官舎の前に集まり、呼び鈴を押すと背広をきちんと着用した総長が自ら出迎えられて、客室へと通された。官舎だけあって来客も多いのであろうか、その客室は30畳ほどの広さがあった。会議用の机と椅子があって、その傍らに応接セットが置いてあった。テーブルは15〜16人の人が集まって会議できるほどの大きさであったと思う。勇達はそのテーブルに案内されて、予め用意されていたビールの栓を抜いて乾杯をした。そのうち総長が机の上の鈴を鳴らされると、奥様がよく冷えたビールとつまみを籠に入れて持ってこられた。総長夫人が女中も置かずに、自ら学生達の飲み食いの世話をされるのに一種の感銘を受けた。と同時に学者というのは男尊女卑で亭主が随分威張っているのだなという感じを抱いた。小1時間もお邪魔してお暇したが4年間の学生生活で最も思い出に残る1コマであった。
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