| 2004年11月27日(土) |
コンパスのような女性�� |
再び肇が香織と交渉を持つようになったのは、大学1年の夏休みのことである。激しい受験勉強から開放され、目的の国立大学に入学した肇は親元を離れて古都での学生生活にも漸く慣れ、祇園祭り、大文字焼きを土産話しにして初めて帰省した。肇が帰省するのを待ちかねるようにして、小学校時代の同窓会が開かれた。中学時代ではなく小学時代の同窓会であるところに意味があった。
同窓会の幹事役を買ってでたのは桑野である。桑野は頭の良い男であったが、家庭の経済状態が許さず夜間高校へ通って、苦学力行しミシンのセールスにかけては特異な能力を発揮した。Rミシンでは3年間続けたトップセールスマンの実績を看板にして独立を試み、商事会社を設立して意気大いに上がっているときであった。桑野は自分の隆盛を同級生に誇示したいという気持ちがあった。また、とみに美人の誉れ高かった青山香織に近づきたいという魂胆もあった。そこで桑野は小学校時代の同窓会という奇抜なことを思いついたのである。H町にはH小学校とH中学校しかなかったから、H中学は小学校の延長であり、仮に同窓会を開くとすれば、H中学の同窓会を開くのが常識であった。ただ、中学時代の同窓会を開くことになると中学校からはO市のミッションスクールへ通学した青山香織が漏れてしまう。一計を案じた桑野は小学校時代の同窓会を開くという大義名分をたてておいて通知をだしたのである。
中学卒業以来5年程経っていたので、久し振りに見る顔は皆立派な大人であった。当日30人程の同窓生が集まり、旧交を温めた。女子の中には既に結婚して母親になっている者もいた。
餓鬼大将だった清山が学校菜園の西瓜畑に忍び込んで、西瓜に麦藁を突き刺し中の汁を吸ってしまったのを先生に見つかり、一日中廊下に立たされた話しとか、おませの栗坂京子が粗相して小便京子という異名をとった話しなど思い出話しに花が咲いた。
餓鬼大将の清山が銀行マンになっており、物腰が柔らかく話し上手になっているのは驚きであったし、小便京子が化粧品会社のマネキンガールになって見違える程美しくなっているのも肇には新しい発見であった。幹事の桑野は「社長」「社長」と呼ばれ得意になってセールスの秘訣なるものを披露していた。
青山香織は皆が楽しく談笑しているのをにこにこしながら聞いていた。桑野は誰彼となく如才なく話しかけていたが、栗坂京子と青山香織には特に親切に振る舞っていた。いつとはなしに、話題は恋愛論、結婚観、女性観、男性観へと転じていった。若い年頃の男女の集まりとしては当然のなりゆきであった。
肇も桑野に促されて、恋愛論を喋らされるはめになってしまった。 肇は小学校3年の時、臨海学校へ行って、飛び込み台の高い所から飛び込んだ話しをした。そして、あのとき未経験にもかかわらず、自分を一番高い所から飛び込ませる原動力となったものが、初恋の感情であり、純粋な恋愛感情というのは、そのようなものではないかと思うと述べ、この純粋な気持ちを大切にしたいと結んだ。肇は喋りながら、香織の方を注意していたが、香織は頷きながら、肇の話しを熱心に聞いていた。水玉模様の帽子を被り、黄色の水着を来ていた女の子が香織のことであると気づいている筈なのに、その表情からはよく読み取れなかった。しかし肇は香織の視線に眩しいものを感じていた。
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