▼引き揚げ 待ちに待った引き揚げの日の10月6日には、鎮南浦の港へ集まり、何隻かの貨物船に班別に分かれて乗り込み、鎮南浦の湾を横断して対岸の黄海道まで渡り、後は38度線の国境まで、歩いて行くという旅程であった。船旅は二、三時間の短い時間であったが、船酔いする人が多かった。船の中には便所がなく油用の一斗缶を二つ切りにした容器に吐出物やら排泄物を入れて、これを海中に投棄するという原始的な汚物処理が行われていた。朝鮮人の乗組員達は両手で船縁につかまり、剥き出しにした尻を海中に突きだし、器用に悠々と放便していた。
対岸へ上陸してからは、隊列を組み国境線目指しての山越え、谷越えの徒歩による旅が約一週間続いた。あるときは、朝鮮人の土地の自警団の青年達に指輪や腕時計を与えて村の通行許可を得たり、見回りに来たソ連兵を振り袖の着物で買収して移動許可を貰ったりしての苦しい逃避行であった。
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