その四は、同居人の片桐さんの御主人が、炭で真っ黒に汚した顔から白い歯を覗かせてにっこり、誇らしげに笑っている立像画である。背中には石炭の入った背負い子を荷なっており、両肩には背負い子の帯が食い込んで、背中の荷物が重たいことを証明している。朝鮮では冬の季節には独特の暖房施設として、何処の家にもオンドルが設けられており、これに火がいれられる。ところが、敗戦国民にはオンドルを常時暖かくしておくだけの燃料用の石炭が充分には配給されない。そこで子供達が薪を拾いに山や原へ出掛けて行ったり牛車が運搬の途中でこぼしていく石炭を拾っては暖をとる足しにしていた。寒さが厳しくなってくるとどうしても沢山の石炭が必要になってくる。そこで、会社の貯炭場に野積みされている豆炭や石炭を夜陰に乗じて、見張りの目を盗んで失敬してこようと考え出した人がある。
元もと戦前までは自分達が勤めていた会社であり、自分達の管理下にあった石炭を戦争に負けたために、接収され朝鮮人やソ連人の管理下にあるだけのことである。戦前であればこの貯炭場から、供給されていたのだから、少しぐらい持ってきてもかまわないだろうという勝手な理屈をつくりあげたのである。たまたま当番にあたった片桐さんが決死の覚悟で、貯炭場へ忍び込み首尾よく目的を達して生還したのである。元は自分達が管理していたとはいえ、会社のものであり今では戦勝国の管理下にあるのだから、石炭を運び出すところが見つかれば窃盗として射殺されても文句の言えない行為である。それだけに無事に帰ってきた片桐さんの顔は誇らしげに、安堵の色に輝いていたのであろう。極度に困窮すれば、窃盗に類した行為でも集団の容認のもとで行えば正当化し英雄化してしまう人間の性(さが)の弱さ、悲しさに思い到らせる絵の一枚である。
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