前潟都窪の日記

2004年10月28日(木) 春のめざめ��

 ▼春のめざめ
 小学校へ入学して間もなく、鎮南浦の街中から登校している松田君と仲良くなり、彼の自宅へ遊びに行ったことがある。松田君の家はすべての点でもの珍しいことばかりであった。まず、松田君の家は大きな商家で番頭さんや手代、丁稚、女中さんが沢山居て「若ぼんぼん」と呼ばれていたことである。「坊や」とか「坊ちゃん」という呼称は聞き慣れていたが「若ぼんぼん」という呼称は初めて耳にする言葉であり、松田君がひどく偉い人のように思えたものである。

 玄関を入った所に帳場があって、番頭さんが算盤をパチパチ弾きながら帳面付けをしている光景は初めて見た世界であり、壁に掛かっている電話器も珍しいものであった。帳場へ子供が入ることは禁じられているらしく、物珍しそうにキョロキョロしている勇をせかせて松田君は自分の部屋へ連れて行った。

 次に松田君のお母さんが三味線を弾くことと煙草を長い煙管で吸うことも驚きの一つであった。今まで煙草は男の大人が吸うものだと信じきっていたから、固定観念が打ち破られた初めての経験であったし、見るもの聞くことが、何れも興味のあることばかりであった。玄関の隅にたてかけてあったスキーの橇板も初めて見るものであった。


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