父を頼もしく思った記憶としてもう一つの光景がある。やはり山手社宅で就学前のある冬の日の出来事であった。朝早くから、朝食の用意をしていた母が貧血であったのか、風邪で熱があったせいか定かではないが台所で気分が悪くなり、倒れたのである。このとき父が母親を両手に抱きかかえてオンドルの部屋まで運び、布団を敷いて寝かし付け、体温計で熱を計り、鎮南浦の街から医者を連れてきたのである。私も一生懸命、布団を敷く手伝いをしたり洗面器に水を汲んで運んだりしながらいいしれぬ不安に襲われた。先生が診察を終えて洗面器で手を洗いながら「心配いりません。ゆっくり休んでいれば直ります」と言われたとき安堵すると共に頼もしい父親像を発見して尊敬の念を覚えた。
また山手社宅での出来事であるが、妹の幸子と庭で遊んでいたとき、尿意を催し、チンポコを出して幸子へ向け「ひっかけるぞ」と冗談を言ったら、大袈裟に騒いで逃げたので、面白くなり、追い掛け廻したことがある。これを目撃した父が激怒し勇を叩こうとした。危うく身をかわした勇は庭へ逃げた。
ところが父も勇をどこまでも追い掛けてきて、塀を攀じ登って逃げようとする勇の太股を手にした青竹で思いきりひっぱたいたのである。右の太股にできたみみず腫れは暫く痛んだ。叩かれて悪ふざけが過ぎたことを自覚したせいか、泣きもしないで母親のとりなしで父と妹に謝り、その場は収まった。いたずらをして拳骨を貰ったことは度々あったが、この時の折檻は余程身に応えたとみえこれ以後、父から体罰を受けたことはない。父親は怖い存在であることを実感として脳裏へインプットされた出来事である。
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