前潟都窪の日記

2004年09月08日(水) 【ワーキングホリデーの若い日本人・・オーストラリア�◆�

平成十年八月十九日(火)                           
 昨夜は十時を廻ってしまいレストランも閉まってしまったので、パンやバナナで夕食を済ませた。
 朝五時過ぎには目が覚めてしまった。湯を沸かしておいて洗面後、ビデオカメラを肩にして、海岸通りへ出てみた。大きな合歓の木の下は芝生になっており、これを通り抜けると海岸へ出る。海岸には歩道が舗装されており、既に現地の人達が老いも若きもそれぞれにショートパンツで走ったり、歩行したり、犬を歩かせたりしている。満潮時らしく海面は上がり、静かに波打っている。ホテルの直前の浜は礫石だらけである。マングローブが密生していたところを切り拓いて浜にしたらしい。左手前方にマングローブ林が見えているので、とりあえずそちらへ歩いていこうとすると、丁度右手前方の山に光がたちはじめた。日の出である。手前の海岸線から視線を前方に投げやると、さざ波のたっている海面の向こう側に濃紺に黒みがかった山並みが横たわっている。上空にはつい先程まで明けの明星が一際大きく、光彩を放って輝いていたのに、いつの間にか姿を消して、空に三条、山に二条、橙色の光の帯が輝やき始めた。空は朝焼けで朱色に変わり、山並みの色を紫色から次第に緑色に変えていく。日の出前の色の変化は実に素晴らしい。あっという間の変化である。日輪が円形の姿を現したのは六時五十分であった。眩しくてまともには目を向けられないが、ビデオカメラのファインダーから眺めていると、瞬時の太陽の形の変化を観察することができる。
                                        
 日の出をビデオカメラに収めて歩きはじめると、顔を合わせた外人がグッドモーニングと声を掛けてくる。概ね若い人達は黙っているが、年配の人は必ずといってよいほど声を掛けてくる。今度は行き違う外人にこちらから、グッドモーニングと声をかけてみる。すると必ず例外なしにグッドモーニングと返ってくる。それだけでも気持ちが清々しくなってくる。           
 帰国して、届いていたESSの会報を見て知ったことであるが、オーストラリアでは観光振興には力を入れており、特にタウンズビル市の観光振興団体のリチャードバワー局長は「観光のポイントは一度来た人にまた戻ってきて貰うこと」として、そのためには土地の人々が時間にして3分でも、1分でもよいから観光客に話しかけることを提唱して市民運動を展開しているという。外人は一般に、気軽に挨拶をするという習慣があるように思っていたが、散歩の途中で行き交う人々に朝の挨拶の声をかけるのは、市民運動の一つの現れだったのかもしれない。

 散歩をしていて挨拶をかわすことの素晴らしさを感じたことは前にもある。昨年は、一年間、京都市内の五条烏丸近くのマンションに住まいして、毎朝、五条大橋から北へ鴨川の河原を夜明けと共に歩きだし、荒神橋に至ってから折り返すことを朝の日課としていたのであるが、自分が能動的に挨拶をしかけるとどういう反応が現れるか実験してみたことがある。こちらから挨拶をすると先ず間違いなく、九十%の人は挨拶を返してくる。残りの十%の挨拶を返してこない人は決まって若い人である。そして特に、若い女性である。日本は治安の良いことでは世界でも指折りの国であるが、それでもたまには女性の一人歩きが事件に巻き込まれるということがあるので、若い女性は安全確保の観点から、当方の挨拶を無視するのであろうと理解していた。この傾向はケアンズでも見受けられた。若い女性はこちらの挨拶に対して、無視していく人が多いのである。変なオジサンではないというのにッタクモウ!    
                                        
 遊歩道の終点であり、且つ出発点でもある舟形の建物の中では、十人ばかりの人が集まって、宗教儀式めいた行為をしているのを目撃した。登る朝日を背後にして太陽エネルギーを体内に取り込んでいるような仕種がみられた。ビデオカメラで撮影していることがわかると、司祭者らしい太った白人女性が視線を投げかけてきてニッコリ微笑んだ。私も右手を挙げて挨拶を返した。浜辺のベンチでは若いカップルが男の膝の上に女が馬乗りになり、朝から熱いキスで夢中になっていた。カメラを向けるのも悪いような気がして、海浜で餌を漁る白い鳥の群れを撮影しながら、ついでにカメラを素早く回して瞬時、盗み撮りをした。       

 ホテルへ帰ると皆起き出してきて、朝食の用意を始める所であった。昨日のスケジュールの打ち合わせではオプショナルツアーに参加する費用として乗馬75$、キュランダ観光150$、グレートバリアリーフ観光140$、ターリーリバーラフティング128$と計493$必要となる。しかし、成田では300ドル程度しか両替していないので、現地通貨を調達する必要がある。そこで皆で、市内へ出掛けることにした。フロントへ立ち寄ると関西組の中山夫妻と斎賀氏が到着したところであった。 

 シティバンクのキャッシュカードを持参しているので、能書き通り、この
カードで現地通貨を引き出せるのか実験をしてみたかったが、なかなかシテイバンクのATMが見つからない。用意してきた日本円を両替して貰う方が手っとり早くてよいかなと考えながら歩いていると、案内書にも紹介されているトーマスクックという交換率のいい店を発見したので、ここで両替してもらい、マーケットで食料品を購入して帰った。午後から、迎えのバスで乗馬に出掛けた。       
                                        
 初めての乗馬なので、どんなことになるか心配であったが、若い日本人女性や男性がいきいきした顔で働いているので、内心言葉の問題で悩まなくてもいいなとホットした。最初馬を与えられて、騎乗してから日本語でガイドからたずな捌きの説明があった。幾つかの馬にたいする命令が、たずなの扱い方によってなされることが説明された。見本も示された。一通り説明を受けたが全部覚えているかどうか覚束ないところがある。もう一度復習してくれるといいのだがと思っていると、そのあといきなり、隊列を組んで歩行の開始である。林の中の坂道を上がったり下ったり、身の丈以上もあるブッシュの中を草を分けながら進んだり、川を渡ったりと初心者に対していきなり、実地の体験をさせるのである。軽い駆け足をしたときには、尾てい骨の皮が擦りむけるやら、落馬しやしないかと必死に鐙を踏みしめるやらで、まことにスリリングな体験であった。ここでまたオーストラリヤ人の観光に対するとらえ方の違いをはっきり感じた。  
                                        
 観光による異文化の理解ということもさることながら、「観光は個人の楽しみのため」というコンセプトが観光する人の側にもプロモートする側にも徹底しているということである。日本であれば、安全対策がどうの、訓練期間がどうのという問題が発生して、今回の乗馬のように手軽には楽しめないのではないかと思う。楽しむためには観るだけでなく参加することである。この当たりの基本的な認識の違いがあるのではなかろうか。ここであるソフトハウスの社長が言っていた、楽しいレジャーの要件を思い出した。その一は、ある程度の危険が内包されていること。その二は、ある程度金のかかること、そして最後に自分の技術力でコントロール出来ることというのであるが、核心をついている卓見だと思った。

 帰りのバスの中でワーキング・ホリデイでオーストラリヤに滞在している大学生の男子と隣合わせになったので聞いてみると、彼はこの牧場で働くかどうかを決めるために今日は現地見学にきたというのである。たまたま、近く契約終了で牧場を去る日本男子の後任として人を募集しているのを知って応募してきたというのである。カナダやタイ等で放浪した経験があるらしい。労働条件は宿泊所と三食を提供されるだけで、賃金は支給されないから小遣いと交通費は自己負担であるとのことである。彼らの主たる狙いは英会話が堪能になることと異国の文化を肌で感じ、変わった体験をすることにあるようである。それにしても若い日本人男女が溌剌として働いている姿は逞しいの一言に尽きる。

 夕食はピアマーケット内のハーバービューという中華料理のレストランで会食をしたが相対に旨い味付けであった。焼き飯、焼きそばの味が特によかったようだ。


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