加藤のメモ的日記
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2023年09月02日(土) 老いと病に向き合った人たち

最期の最後まで、自分の命と徹底的に対峙する人もいる

人間ドッグで心臓病が判明  堺屋太一

「命を燃やし尽くす道を選ぶ」
最期の最後まで、自分の命と徹底的に対峙する人もいる。2019年2月に亡くなった作家で、元経済企画庁長官の堺屋さんもその一人だ。妻で洋画家の池口千歴子さん(78歳)が語る。

「主人は亡くなる一年前、定期的に受けている人間ドッグで心臓に異常が見つかりました。そこの先生がより精密な検査を受けたほうがいいというので、港区にある心臓血管研究所付属病院に検査入院したのです。その結果、軽度の心臓病が判明しました。

とはいえすぐに手術する必要はないとのことで、自宅で経過観察となりました。その時は胸をなでおろしました。ですが今思えば、その頃からおしゃべりだった主人の口数はだんだんと減っていったのです。異変を来す前の堺屋さんは、ライフワークでも、ある博覧会プロデュースの仕事にも精力的に打ち込んでいた。2018年8月には堺屋さんと仕事場を全面改造した美術館「美術愛仕館」で「堺屋太一監修
万国博覧会展」を開催し、2025年に予定される大阪万博の誘致、準備にも尽力していた。

そんな堺屋さんは2018年の秋ごろからしきりに体の不調を訴えるようになる。日常生活の中でも、折に触れ「あぁ、足が痛い。膝も痛い。歩くのが辛い」とこぼすようになった。そして翌年1月7日、突然自宅で倒れてしまったのだ。堺屋さんは病院に運ばれすぐに手術を受けるも、次第に衰弱していき、緊急入院からわずか1か月後、多臓器不全により死去した。

今になって振り返れば、堺屋さんは最期を悟っていた節があったという。通産省に在職中だった1975年に『油断!』を上梓して以降、休む間もなく執筆してきたg、死の直前はそれまで以上に原稿に撃ち込むようになったのだ。

「主人は朝7時や8時まで徹夜で執筆することは珍しくなかったのですが、倒れる直前は10時を回っても部屋に籠り、原稿を書き続けていました。本当に鬼気迫る勢いです。心配のあまり「お願いだから、もう休んでください」と頼んでも聞いてはくれなかった。それが原因で口論になったこともあります。主人からしたら、書き残したいこと、伝えたいことがまだあった。だからこそ、命を燃やし尽くす道を選んだのでしょう」

自分がどこまでやれるのか。残された時間をすべてつぎ込み、自らの本懐をまっとうする。死に至る病を前に、堺屋さんは最後まで闘い続けた。


『週刊現代』7.10 


加藤  |MAIL