加藤のメモ的日記
DiaryINDEXpastwill


2013年10月15日(火) 榊原式 スピード思考力

正解があるのは学校のテストだけ

先に物事は常にグレーであるという話をしましたが、黒か白かを決められないのと同様、世の中で起こるほとんどの問題には正解がありません。正解があるのは、学校でのテストなどごく限られたケースでしょう。学術会議会長の金沢一郎さんは、高校生を相手にした授業で、面白い問題を出したことがあります。

それはこんな問題。とある小学校の一年生のクラスには、女子児童が13人と、男子児童が12人います。さて、このクラスの担当の先生の年齢は何歳でしょうか?こうして文字に書かれたものをみれば、多くの人が、年齢を示す材料など何もないことがわかると思います。その通り、この問題には正解がないのです。

ところがこの問題を出すと、実に3割ぐらいの人達が「25歳」と答えます。13と12を足した数で。それなら小学校の先生の年齢に妥当だから……という類推なのですが、それが正解になる理由はどこにもありません。しかし「正解がないわけがないから」という常識で、その一番ありそうな数値を解答にしてしまうわけです。

それだけ多くの人達は、「解答がある」という世界に慣れきってしまっているのです。そして、それをさまざまな局面に引きずってしまうので、自分の頭でものを考えることをせず、誰かの言ったことをそのまま「解答」として、流されていってしまうのです。学問の世界でもビジネスの世界でも、解答のない問題がほとんどです。しかし、暫定的な解答を出して、問題解決のための行動を起こさなければならないことが少なくない。特にビジネスの世界は常に動いていますから、さまざまな分野で速断を要求されます。

しかし、暫定的な解答である以上、間違っている可能性は常にあります。これに関して、例えば投資家のジョージ・ソロス氏は、よく「fallibility」という言葉を使っています。訳すと「誤謬性」(ごびゅうせい)という意味で、人間の選択は常に間違っている可能性があるということ。それはソロスのような投資の神様のような人でも同じで、それを意識しているから、彼は瞬間瞬間で「自分が間違えた」ということを認識できる。そうして「買い」だったものを急遽「売り」に転じたりして、マーケットで勝利をつかむ契機となるのです。

科学的結論は常に暫定的なもの 教科書の記述もどんどん変わる

絶対的真理ということに関していえば、哲学者のカール・ポパーがこんなことを述べています。すべての科学的真理は、みな暫定的なものである―と。
つまりは、絶対的な拠りどころとなるはずの科学的真理ですら、崩れるような事実が発見されれば、過去のものになっていくわけです。かっては太陽が地球の周囲を回っているのが真理でしたし、近代文明の基礎となったニュートン力学にせよ、アインシュタインの相対性理論にせよ、現在はすでに過去のものになっています。

要は科学的真理なるものは、「それを否定する理由がないから、今のところは真理にしておこう」と、そういう約束のうえに成り立った”仮説”にすぎないわけです。例えば現在、地球の年齢は40億歳とか、50億歳とかいわれています。それが受け入れられているのは否定するような証拠が出ていないからで、何か新しい証拠が出ればいくらでも変わってしまうでしょう。

それは理系の自然科学の話だけではありません。かって江戸時代の農村といえば、民衆が貧しい暮らしをしていたと思われていました。しかし、最近の研究では自治のシステムが整い、比較的平等な富の分配が行なわれ、貧富の差があまりない経済的に豊かな社会であったことがわかっています。

とくに江戸時代から、明治初期にかけて来日した外国人の目を通して当時の社会を描いた、渡辺京二さんの『逝きし世の面影』(葦書房)という本では、欧米人が当時の民衆の生活を見て「衣食住が豊かである」という証言を多く残していることを指摘しています。新しい論拠が出てくれば、定説というのはいくらでも変わるのです。

教科書にも載せられているような科学的真実というものも、往々にして実は暫定的なるものに過ぎません。どのような命題も、今は絶対的真理だと思えても「今のところ、間違いないように見える」とか、「法律的には、現在はこっちが正しい」とか、「多数の人が現在はこちらを採用している」という暫定的なものなのです。

そうすると私たちは、科学的な真実にしろ、一般的に「正しい」と受け止められていることにしろ、常に”検証する”という態度を持っていなくてはなりません。しかし検証する前に重要なのは、「それを疑いの目を持って見られるか」ということ。同質性が高く多数の意見が絶対的なものになりやすい日本で、”常識となっていることに疑問を持つ”ということは難しいかもしれませんが、どうしても必要なことなのです。



『榊原式スピード思考力』 榊原英資


加藤  |MAIL