加藤のメモ的日記
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そのとき東京、そして日本に起こること
五輪誘致が達成されれば、天国だが、もし落選した場合、一気に「地獄」行きとなる。東京五輪に賭けた投資家は一気に下がる株で泡を食い、大規模公共投資に期待した建設業界は、完全にその当てが外れてしまう。やがてそれらの不満は「招致失敗の戦犯追及」へとつながっていく。
〈経済効果約3兆円、15万人の雇用誘発〉東京都は五輪を開催したときの波及効果をそう試算している。だが、まさかの落選となった場合、3兆円の皮算用が水泡に帰すばかりか、”奈落の底”に突き落とされる業界、企業、投資家もいる。前回、2016年五輪を争って敗れた直後には、招致委員会の理事全員が引責辞任するだけで済んだ。しかし、足かけ8年の誘致活動で2回連続落選となると、かかった経費や表に出ていない先行投資は相当な規模にのぼるはずだ。過去には名古屋への五輪誘致の旗を振り、「絶対有利」と見られながらソウルに敗れた中谷義明・元愛知県知事が、ソウル五輪終了後に謎の自殺を遂げるという悲劇も起きた。兆単位のカネが動く五輪には、そんな”、魔物”が棲んでいる。
東京敗北となればまず株が急落する。投資顧問会社「マーケットバンク」代表の岡山氏が指摘する。「株式市場では五輪関連銘柄に招致を見越した買いが入っている。東京に来ないとなれば株価は急落し、1万3000円割れの可能性が高い」誘致の成功と失敗で経営的に天国と地獄ほどの違いが出るのが五輪銘柄の代表格、建設、不動産業界だ。
五輪誘致となればメイン会場となる国立競技場が。1300億円をかけて 万人収容の開閉式ドームへと大改修されるのはじめ、有明に観客1万500人収容のアリーナ、大井に2ヶ所のホッケー競技場、夢の島にアリーナ2ヶ所、辰巳の2万人収容プールなど東京湾岸部に22の大型競技施設が建設される。現在、ゴミ焼却場が立つ晴海埠頭には、約1000億円で選手村用のマンション群が整備され、五輪開会後は分譲されて、新たな街ができあがる。
「そうした建設工事の受注調整はほぼ終わり、工事がもらえると思っている大手ゼネコンから下請けまで、建設業界は6月の都議選や7月の参院選でフル稼働した。それがパーになれば黙っていないはずです」(元都議)不動産業界も、五輪誘致を見越して東京・晴海地区などに高層マンションを次々に建設中で、「選手村に近く、五輪で数種目の競技が観戦できる」と謳って販売販売し、人気が高い。
ある個人投資家は、五輪が来れば値上がりすると考えて前回2016年五輪の誘致の際に夫婦の老後資金で晴海の投資用のマンションを2部屋購入した。ところが当てが外れたうえに、震災で液状化の被害を受けた。今度こそはと期待しながらも不安は隠せない。
「今回も誘致失敗なら相場は急落だろう。そうなったら挽回するどころが大損だ」天国と地獄は招致委員会の公式スポンサーでもあるJALやANAなどの大手航空会社や旅行業界、大メディアもそうだ。五輪開催となれば世界から延べ数10万人の客が来日する。航空会社や旅行代理店にとっては特需で、ホテルも都内の17万室が満室になると見込まれている。大手、メディアも五輪祭り報道で、巨額の広告収入が期待できる。それを期待して誘致活動にカネを出しているだけに、負けたら経済的損失は計り知れない。
「失言コンビ」は針のむしろ
「誘致失敗ショック」が一通り過ぎた後は、期待を裏切られた大メディアや各業界によって間違いなく戦犯捜しが始まるはずだ。真っ先に槍玉にあげられるのが、失言コンビの麻生副総理と猪瀬東京都知事だろう。麻生氏は憲法改正について「ナチスの手口を学んだらどうか」と発言したことが、かってナチスに痛めつけられた欧州諸国の票に影響を与えたと指摘された。
猪瀬氏はニューヨークタイムズのインタビューで「イスラム諸国は共有しているのはアラーだけで、互いにケンカばかりしている」と口を滑らせアラブ圏12カ国の駐日大使への謝罪に追い込まれた。こちらはイスラム諸国の票を逃したといわれても仕方がない。「誘致活動の重要な時期に、相次いだ2人の失言がライバル都市の票集めを利したことは否定できない。日本はまず謝罪や誤解を解くところから始めなければならなかった」(誘致委員会関係者)
さらに猪瀬氏には苦しい選択が待ち受けている。東京都には石原前東京都知事時代に、毎年1000億円ずつ積み立てた約4000億円の開催準備基金が残っている。それを何に使うかが次なる大問題になる。基金の原資は都民の税金だ。6月の都議選の公開討論会でも、「五輪が来ないなら、取り過ぎた税金は減税で都民に帰すか、子育て支援や社会保障に使うべき」という声があがっており、現実に招致に失敗したらそうした都民の声が一層高まるのは間違いない」
それに対して、都議会自民党や建設業界、各競技団体には、「五輪が開催できない場合でも老朽化した競技施設の整備に充てるべきだ」との計画通りの競技場建設を求める声が強い。猪瀬知事が選択を誤れば、都議選で得た434万票を敵に回すことになりかねない。もう一人、戦犯の”本命”を忘れてはならない。五輪誘致の失敗で最大のダメージを受けるのは、実は安倍首相である。
「参院選は自民が大勝したものの、アベノミクスはとっくに息切れし、約束したサラリーマンの給料も上がっていない。安倍首相がここにきて急に五輪誘致に力を入れたのは、他に支持率を維持する材料がないからです。五輪誘致に成功すれば安倍人気はしばらく続くし、株価も上がり、国民に不評の消費増税を強行しやすくなる。しかし、失敗すれば国民の熱が一気に冷め、国民の生活が良くなったように見せかけてきた安倍政権の実態が明らかになり、支持率急落に向かう可能性がある」(政治ジャーナリスト・野上氏)
市場もそこらを見極めようとしている。マーケットバンク代表の岡山氏が語る。「東京が落選したときに株価が下がるのは、五輪特需がなくなるという理由だけではありません。安倍総理は自ら五輪招致のために各国を歴訪した。それでも勝てないとなれば首相も国際的評価への失望感が広がり、海外投資家の日本売りが起きるからです」
『週刊ポスト』9.13
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