加藤のメモ的日記
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2013年09月17日(火) ジタバタしない

アメリカなど11カ国が勧める環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉に、日本が初めて参加した。安倍首相は「国益にかなう最善の道を追及する」と述べて、はっきりとしたGOサインは出していないが”前のめり”のようである。日本政府は遅れを取り戻そうと、この交渉におよそ100人もの交渉団を送り出した。

しかし、関税撤廃などをめぐって、各国の利害が対立し協議は難航している。10月には大筋合意が予定されているが、そう簡単ではなさそうだ。アメリカは年内妥結を目論んでいて、9月に開くはずだった会合を前倒しして、8月22日からブルネイで開催した。

TPPで安い農作物がアジアからから入ってくれば、日本の農業は崩壊する、とJA(農業協同組合)は心配している。一方で無農薬、有機農法を駆使したおいしいお米を前面に出して外国と戦っていこう、という考え方もある。自由な舞台で堂々と戦いたいという若い農業経営者の気概もわかる。しかし、やはり農業に関してあまり詳しくは語られていないという点で、農業従事者は皆不安のようだ。

2012年の日本総研の調査で、都道府県別の幸福度ランキングが発表された。長野県は健康、文化、仕事、生活、教育部門の総合で1位になっている。一人当たりの県民収入は25位で、決して豊かではないが、それも県民は「幸せだ」と感じている。90歳になっても作物を育て収穫するという生き甲斐があるから、医療保険や介護保険を利用しないで、幸せで健康で長生きができている。日本全国全ての県が長野県のようになれば、医療費がうなぎ上りにはならず、国民皆保険制度が維持でき、世界一の長寿国になると、先の研究はまとめている。

TPP加入に踏み切った時、各国と戦うために農業の大規模化や、集約化がしやすい法律をつくるだろう。さらに大企業が農業に参入できるように改革するだろう。だからこそ、TPPが小さな農業を生きがいにしてきた人々の生活パターンを壊さないかどうかも考えておくことだ。TPPに参加しようとしている12カ国の国内総生産(GDP)は、世界のGDPの4割を占める。巨大な自由貿易圏で日本はどこに活路を見出していくべきなのか。これから国民的な議論が急務だと思う。

         ◇

日本郵政ががん保険で、アメリカの生命保険会社であるアメリカンファミリー生命保険(アフラック)と提携を強化した。これは一見すると、ウィンウィンの関係のように見えるが、圧倒的にアメリカの圧力による支配といえる。アメリカの民間保険会社はロビー活動が激しい。アメリカの生命保険会社が介入しやすいように、保険診療に保険外診療を併用する混合診療を拡大せよと、毎年日本に要望し続けている。実は、日本郵政とアフラックの提携には、複雑でこみ入った問題が隠されているのだ。

海外で標準的に行なわれている抗がん剤などは、日本では、未承認のため、医師の裁量で使用はできるが、その時の検査や入院、他の診療などすべてで保険が効かなくなる。しかし、混合診療が拡大されれば、抗がん剤の費用は自己負担だが、それ以外の検査や入院などは保険が使えるようになる。この自己負担分を加入しているがん保険で守るというストーリーで、生命保険の窓口を広げようとしているのだ。

混合診療の解禁を求める声は財政論の立場からも上がっている。高額の特別な医療に関しては、国民皆保険の制度の中で行なわず、自費で行なえばいい。余裕のある人たちからはそんな声も上がっている。要はアメリカの保険会社は、混合診療にして高額医療が多くなればなるほど、民間保険の出番が多くなる。それを狙っているのである。日本郵政が、独自でがん保険をつくろうとしたのにつくらせず、アフラックのがん保険を、日本郵政が日本全国で売るように圧力をかけるというシナリオ。日本の他の生命保険会社は、がん保険に関しては完全な敗者になる、と僕は見ている。

TPPは単なる貿易の自由化協定ではないのだ。日本郵政が一つ譲歩したから、あとはアメリカが我慢してくれるなどと思っていはいけない。次々に要望をエスカレートさせてくるはずだ。農業や医療や年金など、今見えていない問題が国民にとって大問題になる可能性がある。だからこそ、きちんと議論すべきなのだ。何だかわからない形で、今年度中にTPP参加が決められ、何の準備もない日本がガタガタになっていくのが心配である。できるだけ隠さずに、議論はオープンに行なうべきだ。



『週刊ポスト』9.13


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