加藤のメモ的日記
DiaryINDEX|past|will
生命以前の膜から最も初期の生物が形作られるまで、どういう科学的変遷を遂げるのかは、長い間の思索の対象だった。NASAのエイムズ研究センターのシャーウッド・チャンは、液体、固体、気体の三つの表面が接する所で生命が始まったことを示唆している。それは活発にエネルギー交換が行なわれるであろう接合部であり、膜その他のエネルギーの散逸構造を容易に作り得る場所でもある。ライデン大学の生物化学者、ピーター・ウェストブローグは簡潔に「岩、水、大気の交わるところに生命は宿る。それが地球科学のプロセスだ」と述べている。
1953年シカゴ大学において、ノーベル賞受賞者で偉大な科学者。ハロルド・ユーリは大学院生スタンリー・ミラーとともに、生命の創造というこの「地球科学のプロセス」を実験で再現しようとした。これは今までは不滅の実験と評価されている。アンモニア、水蒸気、水素、メタンからなる原始の大気そのものをつくり、一週間、稲妻放電のような電気火花で衝撃を加えた。
激しい衝撃を吸収することによって分子の複雑な鎖がつくられ、壊れ、再び結合し、首尾よくアミノ酸のアラニン、グリシンという二つのタンパク質成分をつくりだした。そのほか、生命の働きによってのみつくられた有機物質をも初めてつくりだすにいたった。それ以来、原始生命のほとんどすべての基本単位は、それを真似た条件の実験室で創られてはきたものの、生きている有機体が人間の手で化学的に創られたことはいまだかってない。
太陽によって暖められ、さらに稲妻によって衝撃を受けたでたらめな衝突の繰り返しを10億年も続けた結果、ごく初期の微生物が海岸の浅い水たまりにきらめき、そしてガイアが、今存在するように生まれたのだ。それはは勝利の事件どころではなかった。最初の10億年間、ガイアは内気な子供のようであったろう。始生代の生命はすべて、浴びればたちまち死んでしまう太陽の光を避けて実質的には泥の中に隠れていたのだ。
マーグリスとセーガンは、ミクロコスモスの研究のかなりの部分をこの原始の時代に捧げているが、ジェイムズ・ラブロックも自分の書物の長い一章をそれに当てている。かっては不可解なものとして棚上げされ、学問的に考察するほど実際的価値がないとされた原始の嫌気性生物の研究が、今では科学技術革新の潜在的な手がかりとして広く再検討されている。発酵作用は初期の生物の基本的な新陳代謝の方法であり、分子の分解という比較的低いエネルギーでのやり方であって、暗いところで起きている。
湿地に埋められたそういうバクテリアから泡が立っているのは同じ分解のプロセスだが、それが今日われわれにワイン、チーズ、醤油などの産物を与えてくれる。そして、目下発展している遺伝子工学の技術を通じて、さまざまな有害物質を滅ぼし消化する微生物の新世代が生まれることも約束されている。10億年にわたる発酵作用の後、ガイアははち切れて解放され、永久にそのコルクの栓を抜いたと言えば、ここでは十分である。
『ガイア』
|