加藤のメモ的日記
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2012年11月01日(木) ハードウェア至上主義の誤謬

電機メーカーや半導体メーカーが総崩れとなった日本では、大リストラが進行中だ。東京商工リサーチによれば、今年の主な上場企業の希望退職者や早期退職者の募集・公募は8月30日現在で50社・1万5000ん超に達するという。個別企業の募集・応募人数は、半導体大手ルネサスエレクトロニススの5000人を筆頭に、NECの2400人、シャープの2000人と続く。それ以外にも、ソニーは国内外で1万人の削減、パナソニックは本社社員7000人のうちの大多数を削減する計画となっている。

結局、日本企業は各社ともカンナで材木を削るように全体的に少しずつ人員を削減してしのごうという姿勢なのだ。しかし、私に言わせれば、今世界で起きているビジネスモデルの”地殻変動”は、一時的なリストラやコストダウンで乗り切れるものではない。周囲を見渡すと、実は今は日本企業だけが苦しいわけではない。一時は韓国企業や中国企業の隆盛が伝えられていたが、実態はどこも厳しくなっているのだ。

例えば、韓国のサムスン電子は、半導体とスマートフォンは利益を出しているが、液晶テレビなど日本勢が苦労している領域はやはり赤字で、決して盤石ではない。中国勢も最近は失速する企業が目立っている。電池から自動車に参入したBYD(比亜油)は、昨年の販売台数が予想を大きく下回り、今年4〜6月期も大幅に減益となって資金繰りの悪化が懸念されている。家電メーカーで中国国内トップシェアのハイアールも、アメリカなどの海外展開はうまくいかず、グローバル化できていない。中国国内の消費が翳ってきたら、どこまで耐えられるのか、はなはだ疑問である。

低価格で日本勢や欧米勢からシェアを奪ってきたサンテックパワー(尚徳電力)をはじめとする太陽光発電装置メーカーも、今や赤字に転落して青息吐息だ。しかも、ヨーロッパでは中国製ソーラーパネルに対するダンピング(不当兼売)の調査が行なわれ、苦境に陥っている。つまり、急成長と喧伝されている中国・韓国企業を含めても、デジタル大陸では勝者はごく少数なのだ。だとすれば、電機・半導体メーカーのビジネスモデルそのもののあり方を問い直さなければならない。

「ハードウェア至上主義」の誤謬

バブル崩壊以降、日本企業は「選択と集中」を金科玉条としてきた。薄型テレビのパナソニックも液晶のシャープと、つい最近までそうアピールしていた。しかし、それが今は逆に自分たちの首を絞める結果になっている。日本企業の「選択と集中」は、どこが間違っていたのか。その反省と総括なしには経営戦略を描けないはずだ。しかし、今なお従来の価値観のまま迷走を続ける企業が多い。

解りやすい例がソニーだ。同社は9月中旬、デジタルカメラの新モデルを発表し、本格一眼とミラーレス一眼の交換式デジカメで2012年度に世界シェア15%を目指す、という方針を打ち出した。デジカメを今後のエレクトロニクス事業の中核の一つと位置付け、このところ市場が拡大している一眼デジカメに高付加価値製品を投入してシェア拡大を狙うのだという。だが、今頃そうした事業戦略を発表すること自体、ソニーは今世界で起きているビジネス新大陸の地殻変動を全く理解していないことを如実に示しいていると思う。

つまり、ビジネスのトレンドは根本的に変わり、もはや単体としてのハードウェアが富を生む時代は終わったのである。その象徴は、日本企業が磨いてきたデジカメやポータブルオーディオレコーダーといった単体のハードウェアの技術が、すべてスマホやタブレット端末の画面上のアイコンになってしまったことだ。個々の”デジタルアイランド”が合体し、スマホやタブレット端末という”デジタル大陸”に収斂されたのである。

そういう状況下にあるにもかかわらず、日本企業は未だに”ハードウェア至上主義”で、液晶テレビ、デジカメ、カーナビなどの商品を軸に選択と集中を行なおうとしている。その一方で、ビジネスシステムは研究開発・設計・製造・販売・サービス・営業などの機能別組織を上流から下流まで”一気通貫”で残したままなのだ。その結果、何が起きるか。シャープのように、4300億円を投じて建設した堺工場を遊ばせたくない、操業度が下がると赤字になるという理由で大型液晶パネルを作り続け、莫大な在庫を抱え込む羽目になる。

自前でビジネスシステムの全機能を持っていることを正当化するため、経営のトップがマーケットや顧客を無視した本末転倒の意思決定をしてしまうのだ。そんな日本企業と対照的なのが、デジタル大陸の数少ない”勝者”である鴻海(かいはん)精密工業とTSMCの台湾勢2社だ。両者の成功は、急成長を続けるアップル社からその製造を受託したという”幸運”に多くを負っている。アップルは設計するだけで、あとは半導体チップをTSMCが製造し、鴻海がiphoneやipadなどの組み立てを担当している。結果的に両者とも、アップル製品の世界的なヒットの恩恵を最大限に受けた格好だ。だが、この台湾勢の「選択と集中」にこそ、新たなビジネスモデルのカギがある。



『週刊ポスト』10.19


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