加藤のメモ的日記
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2012年06月11日(月) 河本母子の「生活保護」

お笑い芸人、次長課長・河本準一(37)。年収5000万円と言われる芸人が母親に生活保護を受けさせ続けた上に、芸人仲間と飲み会の席で、「オカンに役所から『息子さんが力を貸してくれませんか』って連絡があったんだけど、そんなん絶対聞いたらアカン。タダでもらえるもんなら、もろうとけばいいんや」と発言していた、4月中旬、女性セブンがまず匿名でそう報じた。この「芸人」が河本であることは、ネットメディアを中心にあっという間に広がったが、河本は釈明もせず平然とテレビに出続けた。

河本の母親が生活保護を受けていた問題は、河本が会見で遅すぎる謝罪をしたが、それですべてが解決したわけではない。母親が生活保護をもらっていたことに違法性はない。2名の国会議員が煽ったせいで道義的な批判がありうるが、私たちの正当性を理解してほしい。吉本興業は取引先に対して、内々にこんなお願を布いていたわけである。

手紙を読んだ自民党の世耕議員は「あまりにも認識がずれている。私たちは当初から違法性があったかどうかを議論しているのではなかった。河本さんの行為が『同義的な意味で全国民に悪影響をお及ぼしかねない』と思ったからこそ、こうして問題提起をしているのです。全国民への影響はどんなものか。世耕議員は「生活保護の申請の窓口は各都道府県の福祉事務所で、ケースワーカーが一件一件の申し立てに対応します。生活保護費の爆発的な増加という背景があり、ケースワーカーは窓口で怒鳴ったり泣き落としとしたりする申請者を説得して、必要なない人が生活保護を受給することがないように必死に対応している。それはもう涙ぐましい努力をしています。

にもかかわらず、河本さんのようなケースが放置されると、『年収5000万円の人が親を扶養していないのに、何でそれより低い収入の自分が扶養しなければならないんだ』と窓口で言う人が必ず出てきます。たとえ一部上場のサラリーマンでも、『俺はあの人より稼いでいない』と言えてしまう。そこを問題視しているのです。生活保護法では、「扶養義務者の扶養が生活保護に優先する」と明記されている。扶養できる家族がいる場合は本来、生活保護は受けられない。

「市民の18人に1人が受給者」で、生活保護天国とも揶揄される大阪市は、橋本市長の号令のもと、不正受給調査専任チーム、通称「生活保護Gメン」を市内全24区に設置した。Gメンは3人1組で構成され、必ず警察OBが一人入ることになっている。それはこんな理由からだ。


「不正受給者は『バイトしているのに申告しない』不正就労や、別宅があって豊かな暮らしをしているケースなどが多い。調査に乗り出すキッカケは、『誰々は生活保護を受けながら、ここで働いているで』といったタレコミがほとんどです。早速勤務先に確認に行くわけですが、いきなり『誰々さんが働いているでしょう』とは訊けない。受給者である事実を第三者に知らせると、問題になる可能性があるからです。だから調査の手法は張り込みや尾行といった地道なものになる。張り込みが深夜に及ぶこともあります」(元警察官の生活保護Gメン)

警察OBとはいっても、Gメンに捜査権はない。活かされるのは、状況証拠を積み上げてそれを相手に突きつけるという、任意調査のノウハウだ。「『あんた、先月○日の○時頃、○という店におったな』と雑談のように話を振り、相手の反応を見る。そこで『知りませんな』としらばっくれるようなら、『別の日の○時頃にも見たで』と畳みかけていく。集めた状況証拠を小出しにしながら相手を追い詰めていく駆け引きは、警察の事情聴取と同じだ。いかに相手を観念させて本当のことを白状させるか。それが元警察官としての腕の見せ所です」

もちろんすぐに成果が上がらないケースもあり、長い案件では半年以上調査することもある。不正受給を1件でも減らすべくGメンは日夜、汗を流しているのである。地道で地味な作業だ。限界もある。だが、抜本的な法改正がない限り、今できることはこれしかない。違反が見つかれば、以後生活保護は二度と受けられない。現場の努力を知るにつけ、「違法性はないけど辞退した」と自己弁護した河本母子の自分勝手さが浮き彫りになる。


1987年に札幌市、2005年、2006年に北九州市で起きた餓死・孤独死事件も、福祉事務所の担当者が前夫や兄弟姉妹、子供に扶養を求めるのが先だと言って、追い返したために起きたものである。扶養義務の要件化の動きは、現場の実態を全く理解しない暴論である。また、小宮山厚労相はこの機に、生活保護給付水準の10%引き下げも検討することを表明した。これは財政抑制のみを先行させた施策である。貧困が深刻化する中で、生活保護の役割はますます重要になっているのに、一層貧困と格差を拡大させる施策である。

生活保護給付水準の10%引き下げは、生活保護受給者だけでなく、最低賃金や年金、就学援助、税や社会保障の負担などに連動するもので、国民全体に影響する。こうした改悪を、自民党が主導し、厚労大臣がこれに呼応する形で、一体で進めようとしていることは重大である。

多くない受給者・日本

日本の生活保護の受給者は209万人と増えているが、人口に占める割合は1.6%である。欧州先進国のドイツは9.7%、イギリス9.3%、フランス5.7%と、日本より軒並み高い数字である。また、貧困水準世帯の生活保護を受けている世帯の割合は、日本が2割程度なのに対し、欧州は5〜8割程度と大きな差がある。日本で生活保護が増えているのは、非正規雇用の蔓延による低賃金労働者や、失業者の増大、脆弱な社会保障制度が原因である低賃金・不安定雇用の規制強化や、社会保障制度の充実こそ必要である。こうした問題を放置して、生活保護をさらに狭める制度改革を行なえば、餓死、孤立死、自殺をさらに増やすことになるだろう。



『週刊現代』6/9


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