加藤のメモ的日記
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2012年05月27日(日) メスとクスリで殺される人たち

がんではなく副作用で死ぬ

●私が部長をしている緩和治療科にやってくる患者さんを見ても、抗癌剤の種類や投与間隔、治療継続期間なども、もう少し立ち止まって考えてもよかったのに、と思うことがあります。とくに、緩和治療科へ来るのが遅かった患者さんは、心も体もボロボロに傷ついてしまっている人が少なくない。

○実際、病理学(病気の原因究明を目的とする医学)の医師として、亡くなったがん患者の解剖をすると、病気が直接の死因の人がいる一方、治療の副作用が原因だったとしか思えない人もいますね。

●医師が患者さんの全身状態を見ず、流れ作業的に抗がん剤治療に固執していると、気がついた時には患者さんの体は回復できないほどダメージを受けてしまうことがあります。

○抗がん剤の副作用による出血が原因で死に至ることもありますね。

●「医師が患者を陸で溺れさせた」と表現される過剰量の高カロリー輸液も大きな問題の一つです。

○転移のたびに行なう手術も、がん患者の体力をどんどん奪う。

●がんが見つかったら、まずは手術して放射線治療をして、それからベルトコンベアで流されていくように抗がん剤を次から次へと順番に投与して、という機械的な医療が、今なお多くの病院で行なわれているのが現実です。

○でも、自分で体力的に厳しいと思えば、今は抗がん剤投与は少し休んで、あとでもう一度チャレンジしたいと患者側から提案してもいいわけでしょう。

●もちろんです。ところが、多くの患者さんは、がんや抗がん剤の副作用は痛く苦しいのが当然だと思っている。また、これも大きな誤解なのですが、辛さに負けて抗がん剤治療を一回でも休んだら、あっという間にがんが進行してしまうと思い、壮絶な痛みに耐えています。

○確かに、とくに高齢の方は、我慢強い人が多いですからね。

●しかたがないと諦めてしまっている患者さんが多い。がんに伴う苦痛に関しては、採血やレントゲンではわかりません。患者自身が具体的に話をしてくれなければ、適切な診察や治療はできないのです。

○それではい痛みは取れず、苦しいままですね。

●日本の医療の不幸は、がん治療において、このように心身の苦痛を取り除く緩和治療がほとんど重視されていないという点です。外科治療、放射線治療、抗がん剤治療ばかりが、「積極的治療」として率先して行なわれる。

○そうですね。緩和治療にはもう手遅れで、死を待つだけの末期患者に行なうケア、というイメージがいまだに根強く残っています。

誤解されているモルヒネ

●私のところでも、仕事や家などをすべて整理して来ましたから、もう思い残すことはないです、という方が何人かおられました。

○実際、がんを攻撃することだけががん治療だと思っている患者さんがほとんどですからね。

●ええ。一方の緩和治療は、長い間がんで苦しんできた患者さんが死の間際に受ける、「最後のご褒美のケア」という誤解が根強く残っています。

○本当に残念なことです

●緩和治療を受けてうまく痛みを取り除けば、日常生活はほぼ支障なく戻ることだってできる。実際、がんを抑えながら仕事や家事を当たり前に続けている人も多くいます。近年、これまでの緩和治療の誤解を覆す研究発表がなされました。

○どんなものですか。

●‘10年、アメリカのマサチューセッツ総合病院で、抗がん剤治療だけを受けた人と、同時に緩和治療を受けた人との生存期間を比べる臨床研究が行なわれました。その結果は、緩和治療を受けていたグル−プのほうが、不安や抑うつの頻度が低かった。さらに、それに加えて延命効果がみられたのです。

○どれくらい伸びたんですか。

●平均3ヶ月です。新しい抗がん剤でも、これほど長く延命できる薬はありません。

○それはすごいですね。

●ええ。延命効果が科学体に証明されたことで、私自身、改めてがん緩和治療の重要性を再認識できました。

○緩和治療の印象を悪くしているものの一つは、痛みを和らげるために使うモルヒネでしょう。」

●麻薬の一種というイメージが強いですからね。中毒になる、廃人になる、死が早まるなどと、いまだに多くの方が思い込んでいます。実際、モルヒネの投与だけは勘弁してほしいと、患者さんのご家族から懇願されたこともありました。

○そう。モルヒネのイメージがいつの間にか大きく歪められて、今なおそのままになっているんです。でも昔に比べたら、投与方法も品質も、かなり改善されたのでしょう。

●もちろんです。モルヒネは、がんの伴う激しい咳や呼吸困難を緩和できる薬です。また‘04年にはアメリカでモルヒネ服用量と生存期間に関する大規模な調査が行なわれ、その結果、モルヒネを多く服用している人の方が、痛みが少ないうえに、服用量が少ない人より長く生きられた、という事実も明らかになっています。


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