加藤のメモ的日記
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| 2012年05月30日(水) |
メスとクスリで殺される人たち(2) |
大切なのは体力を失わないこと
●誤解を抱いているばかりに緩和治療を受けずにいるというのは、本当にもったいないし、心身的にも相当辛いものがあるでしょう。患者側にも、意識を変えていただきたいですね。
○同感です。緩和治療は、外科手術、抗がん剤治療、放射線治療、免疫治療と並ぶ「第5のがん治療」として、これからどんどん認識していただきたいと思っています。
●緩和治療とがんを叩く治療は、同時に受けることもできますからね。
○ええ、痛みが激しい時は緩和治療で症状を和らげてから、外科手術に戻ればいい。本来であれば、並行して行なわれるのが望ましいんです、
●そうすれば、体力的にも無理なくがんと闘うことができますね
○一方で、病院・医師レベルでの認知は、残念ながら十分ではありません。緩和治療のできる医者や病院がまだまだ少ないのが現実です。
●まったくその通りです。病院によっては、緩和治療を始めたら、もう抗がん剤治療はしません、というところもある。抗がん剤が効かなくなったから、と患者を避けてしまう病院すらあります。
○いわゆる、「ガン難民」ですね。
●現行の診療報酬制度では、一般病棟は平均在院日数を2週間以内に収めないと利益が出にくい。長くは入院させてもらえず、どこに行けばいいのか路頭に迷ってしまう。
○独り暮らしでがんの苦痛に苛まれている人が急増していますね。また、認知症、心臓病、糖尿病などを併発してしまい、悲惨な状況に陥ってしまう方も多い。
●今の状況が続くなら、誰にとっても他人事では済ませられない深刻な問題です。
○緩和治療にしっかり取り組んでいる病院なら、追い出されるなんてことはあり得ません。たとえ抗がん剤が効かなくなってしまったとしても、緩和治療病棟に移り、苦しむことなく最後まで尊厳を持って生きていくことができるんです。
がんでは死なない
●実際、話を聞くだけではがんは治りませんよね。
○はい。でも心の解放・痛みの解消を手伝うことはできます。そうすると、もうどうでもいいや、どうせ死ぬんだと虚無感に苛まれていた人が、明日は死ぬかもしれないけれど花に水をやろうかな、と思えるようになったりする。尊厳や役割意識、使命感が生まれるんです。実はこれは、専門知識を持った医者じゃなくてもできるがんケアなんです。同じ目線で話を聞くだけでいいんですから、誰にもできます。
●具体的にはどんな話をされるんですか
○私はこれまでに約600組のがん患者とその家族と対話をしましたが、病気や死、治療の苦しみに関する話は3分の1程度。あとは家族や職場の人間関係の話です。
●自分の病気のために、息子や娘が高校に行かなくなった、非行に走ってしまった、というケースもあります。がんは、身体だけでなく、当たり前の家族の生活をも大きく傷つけてしまう。
○本当に切実な問題です。家族に関するがん患者の一番の悩みは、「家族と一緒にいられない」ということなんです。
●入院が辛いということなんですか?
○そうではなくて、例えばがんの女性が夫と一緒にリビングにいるとします。病気になると心が敏感になるので、ちょっとした一言で傷つき夫は冷たいと思う。健康は時には、ありえないような受け止め方をしてしまうんです。そうして不平不満が溜まり、リビングに30分といられなくなって一人で部屋に閉じこもるようになってしまう。
●病気なのに、家族と一緒にいられない、家族の顔を見るのもイヤになる。これがどんなに辛いことか。悲しいことか。
○こういう現実は、ほとんど知られていません。がん哲学外来は、今まで放置されてきた、患者さんの傷ついた心の修復を目的としているんです。
●うつ病になってしまうがん患者も少なくないですしね。
○病院では患者同士で傷つけあうこともあるんです。先輩患者が後輩患者に、この点滴はどんなもので、これが使われるようになったら、かなり病気が進んでいるね、なんてことをしたり顔で言う。中には、先輩患者の一言で自殺に追い込まれてしまった患者さんもいたと聞きました。
●残酷な現場がありますね。家族も看病で疲れていて、つい厳しい言葉が出てしまう。どうしてあんなことを言ってしまったのかと、後になって後悔している場面も、よく見ます。
○ほとんどのがん患者やその家族は、精神的に限界に達しているんです。
●だからこそ、家族を含めてケアができる緩和治療を、もっと活用してほしいですね。
○緩和治療はあっても、心のケアまでは行なっていない病院もある。心のケアは、まさに医療のすき間になってしまっているんです。
●がん患者が本当に求めているのは、「技術」よりも「安心」なのかもしれませんね。
○医療は猛烈なスピードで進化しています。
●今やがん治療は、痛いものではなくなりました。
○いずれ確実に、がんでは死なない時代がやってくるでしょう。
○順天堂大学医学部 樋野医学部教授 ●がん研有明病院 向山緩和治療科部長
『週刊現代』4/28
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