加藤のメモ的日記
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2012年02月17日(金) 肺ガン検診で肺ガンになる

長生きしたければガン検診は受けるな

頭部CT検査の被曝量は、最大50ミリシーベルト

ここ数年、、「ガンの見落とし」に関する裁判が急増しています。患者側は「どうしてくれるんだ!」と激怒して病院を訴えますが、私は見落とされてかえってよかったかもしれないと思うんです。へたに激しい治療を受けていた、もっと苦しい思いをして、寿命を縮めてしまう可能性があるからです。私は過去20年にわたって、世界中で発表された検診に関する論文を読んできました。睡眠時間、体重、生活習慣、過去に受けた治療行為など、あらゆる条件を考慮したうえで、ガン検診を受けた人と受けた人が10年後にどうなっているか、追跡調査した結果にもとずく論文などです。

その中で最も衝撃的だったのが、20年以上前にチェコスロバキアで行なわれた肺ガン検診の追跡調査です。そこでは肺ガン検診を定期的に受けていたグループは、受けなかったグループより肺ガンの死亡率が圧倒的に多く、それ以外の病気による死亡率も明らかに多いという驚愕の結論が出ているのです。その後欧米各国でより精密な追跡調査が行なわれてきましたが、その多くが同様の結果でした。つまり、「検診を受けようが受けまいが、寿命が延びることはない」のです。

肺がんだけでなく、他のガン検診やその他の検診でも、同傾向の結果が出ています。肺ガンの検診を受けると、なぜ死亡率が高くなるのか。理由の一つはエックス線検査にあります。国や専門家たちは「エックス線検査には放射能被曝というデメリットがあるが、それ以上にガンの早期発見というメリットの方が大きい。だから害は無視できる」と主張します。しかしこれには科学的根拠がありません。私はありったけの関連論文を読んできましたが、放射線を浴びても、それを上回るメリットがあるということを科学的に証明した論文は、1本もなかったのです。

イギリスの研究チームが、医療用エックス線検査で起こったと考えられるガンを調べたデータがあります。その研究では日本人のすべてのガンのうち、3.2〜4.4%はエックス線検査が原因だと結論づけています。残念ながらこのレポートは、日本では話題にされることはありませんでした。

新潟大学医学部教授の岡田正彦氏(65歳)は、予防医学の第一人者で、現代医療の無駄の多さ、過剰さに疑問を呈し健康のために真に必要なものは何なのか、独自に調査を進めてきた。胸部エックス線検査でさえこれだけ有害なのですから、被曝量がその数十倍から百数十倍もあるCTを使った検診が身体にどれだけ大きなダメージを与えるかは、火を見るより明らかです。

CTが原因でガンが発症するというデータは年々増えています。アメリカには、CTを繰り返し受けるとガンが十数%増えるというデータもあるのです。ところが日本ではまったく問題になりません。それどころか日本のCTの普及率は、2位以下を3倍も引き離す、ダントツの世界一なのです。それでも、CTを使って数mmのガン腫瘍を早期に見つけることができれば手遅れになる前に手術で切除して命をつなぐことができる。だからCTは素晴らしいものだ、と多くの人は思ってしまうでしょう。でも一概にそういえるでしょうか。

手術となったら、肺にしろ、胃にしろ、肝臓にしろ、組織をごそっと取り去ります。しかも、ガンはリンパ管を通って移転するので、近くのリンパ節も全部とらなくてはならない。大変な肉体的ダメージを受け、免疫力が大幅に落ちます。手術後には何度もエックス線写真を撮りますし、抗がん剤治療も必ず行われます。

放射線療法をする可能性も高い。なおかつ、人間の体にとって最もハイリスクな寝たきり状態を強いられ、何重もの責め苦を負うわけです。これで健康でいられるわけがありません。そうはいっても、やはりガンは悪いものだから除去すべきだという反論が必ず返ってきます。しかし、ガンは悪性というイメージは、もはや古い認識です。

治療しないほうがいいガン

動物実験で人工的にガンを発症させて、経過を調べたデータがあるのですが、ガンの大多数は大きくならず、身体に悪影響を与えないタイプのものでした。近年、世界的な研究が行なわれ、人間の場合も生涯大きくならないガンが相当数あることがわかってきました。そうしたガンは下手にいじらないほうがいい。それに、もしたちの悪いガンなら、早い時期に全身に転移するので、早期発見した時には手遅れの場合が多く、予後はそれほど変わらないというのが私の考えです。

だとすると、検診で微細なガンを見つけ出し、激しい治療を施される不利益の方が、放置しておくよりもむしろ大きいかもしれない。これ一つとっても、ガン検診の有効性には大きな疑問符がつくのです。そのことを考えるのにもってこいの、前立腺ガンに関するデータがあります。死亡後、解剖によって初めて見つかる前立腺ガンは非常に多いのですが、彼らはガンを抱えたまま天寿を全うしたことになります。

もし彼らが前立腺ガンの有無を調べるPSA検査を受けていたら、必ず手術になっていたでしょう。その場合、はたして天寿を全うできたかどうか……。治療の弊害で早く亡くなっていたかもしれません。同じことがすべてのガンについて言えるのです。ガン発症人口が増えているなか、近年、急激に死亡者数が減っているのが胃ガンです。多くの専門家は検診の効果であると口を揃えますが、胃ガン検診が普及したのはごく最近で、胃ガンが減りはじめたのはもっと前。胃ガンの死亡者数が減少した本当の理由は、日本人の塩分摂取量が減ったことが多く関係しているのです。

私の計算では、胃ガン検診は、胃ガンを減らすどころか、むしろ増やしている可能性があります。肺ガン検診はエックス線写真を一枚見ればすみますが、胃ガン検診ではバリウムを飲んで検査している間、ずっと放射線を浴びなくてはなりません。その被ばく量は、肺がん検診の100倍近くも高くなります。そもそも胃ガン検診をしているのは世界中で日本だけ。日本は、大規模な追跡調査をやらない国なので、胃ガン検診が有効だということを実証する証拠は一切ありません。にもかかわらず、国が推奨しているのが私は不思議でならないのです。

大がかりな検診は意味がないという認識は、すでに欧米の研究者の間で広まっています。アメリカ人の医者千数百人を対象にしたアンケート調査のデータでは、大部分のドクターは、「検診はやった方がいい。ただし血液検査や尿検査があれば十分で、レントゲンや心電図までは必要ない」という意見でした。

人間ドッグ、脳ドッグも

ところが日本では、いまだに検診は有効だと盲信され、国を挙げて推奨されています。それは何故かというと、一つはビジネスマター、つまり金儲けをする手段として検診がもてはやされているということ。もう一つは「検診は有効だ」という、人々の深い思い込みによります。なくてもいいという発想そのものを持っていないのです。医者の側にも問題があります。医療が細かく専門化した結果、自分の領域しか知らない医者ばかりになり、検診が他の領域に及ぼす影響まで思いが至らなくなっているのです。

また医者はこれまで自分がやってきたことが正当だったと信じたいため、検診に否定的な論文を目にしても、それは例外だと自分に言い聞かせ、患者さんにもそう伝えるのです。だからガン検診を受けても寿命は伸びないし、かえって苦しい思いをしたり、ガンを発症させたりする可能性があるという事実が、患者側には一切伝わってこないのです。

こういったケースは、ガン検診だけに限ったことではありません。人間ドッグに入れば、ありとあらゆる検査の中で何らかの病気が見つかりますが、その中には無理に治療が必要でない微細な病気も多く、結果的に過剰医療につながって身体にダメージを与えてしまう恐れがあります。そもそも人間ドッグという言葉があるのは日本だけで、推奨している国はどこにもないのです。

検査が余病を引き起こす

ガンも8割がた予防できると考えられます。遺伝によって起こるガンは全体の5%ほどで、残りの80%は原因がわかってきましたから。その一つには、前に述べたエックス線検査があります。そして今、深刻な問題になっているの放射能。それ以外にもよく知られたところで、タバコや塩分の取り過ぎ、野菜や果物不足もガンの発症の大きな要因となっています。

それらを解消すれば、ガンの半分以上は防ぐことができるのです。最近では、手軽に野菜の栄養素を摂取できるとうたったジュースやサプリが売られていますが、それでは野菜を食べたのとイコールにはなりません。成分を分解してしまうと、ガンを抑制する抗酸化物質が作用しないため、意味がなくなってしまうのです。野菜は生で食べるようにしてください。生活習慣のちょっとした工夫で、病気は改善されます。薬や手術では効果があっても微々たるもので、生活習慣を改善したほうが、その1.5倍もの効果があります。50%も違うということですから、これに匹敵するような医療行為は他にありません。

人間の身体は、余計な手を加えずとも、自然に沿った生活をすることで、健康が保たれるようにできているのです。検診大国・日本で健康に生きていくために、過剰検査、過剰医療の恐ろしさをよく理解することが大事なんです。


『週刊現代』2.18


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