加藤のメモ的日記
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阿川 改めてガンとの闘いを伺いたいのですが、そもそも最初は……?
鳥越 最初は05年の夏、突然ビールが不味くなったんですよ。変だなあと思っていいるうちに左下腹部あたりが重たい感じになって、そして便に血が混じるようになった。こりゃどう考えてもおかしい、というわけで人間ドッグに入ったんです。
阿川 それまで人間ドッグには?
鳥越 50代になってから年に1,2度行ってたんだけど、3年ほど忙しさにかまけてサボってた。で、久しぶりに入ったら、大腸に「要精密検査」と出てしまって……。
阿川 精密検査とは?
鳥越 内視鏡検査ですね。忘れもしない、05年の9月30日、虎の門病院で受けました。肛門からカメラを挿入されて、僕もモニターを見てたんだけど、突然、画面の中央に大きな醜悪なものが映った。肉が馬蹄形に盛り上がってて、真ん中のへこんだ部分は黒くて、何とも人相の悪い……。血がいく筋か流れ落ちててね。「うわ〜、こりゃあいかんなあ」と。
阿川 ただ事ではないのが分かったわけですか。
鳥越 素人目にもただのポリープじゃないのは分かった。で、先生に「これ、良性じゃないですよね」と訊いたら、「そうですね、良性じゃないですね」と言われた。だから僕の場合は告知じゃないんです。目撃です。
残念ながらガンは、できた瞬間に痛みを発してくれないんです。
阿川 『ガン患者』に「日本人の2人に1人はガンになり、3人に1人はガンで亡くなる」とお書きになってて、そんなにたくさん?って、かなりびっくりしたんですけど。
鳥越 そう、統計ではそういった厳然たる数字が出ている。2015年にはさらに増え、2人に1人がガンで亡くなる時代が来る、と予想されています。
阿川 なぜ増えているんですか。ガンを見つける技術技術が高くなったから?
鳥越 それもあるかもしれないけど、やっぱり日本人の寿命が延びたからでしょう。高齢者は免疫力が下がってくるので、どうしてもガンになる確率も高まる。高齢社会=ガン社会、それは当然なんだと思う。
阿川 そうかあ。長生きする分、ガンに罹りやすい。
鳥越 2人に1人がガンで亡くなる時代に向け、われわれがまず認識しなきゃいけないことは何か。それは、ガンは痛みのない病気だ、ということだと思う。
阿川 よくそう聞きますけど、でも痛かったんでしょ、鳥越さんの場合。
鳥越 でも、ガン細胞自体が痛みを発しているわけじゃないから。
阿川 ?
鳥越 人間の体ってよくできてて、生理的反応はみな、何らかの信号なんですね。咳が出るのは、体内に異物が入ってきたとき、それを吐き出すため。発熱するのは、外から侵入してきた菌を殺そうと体内の温度が上がるため。
阿川 あ、そうなんですか。
鳥越 そうですよ。痛みだって、体のどこかが損傷したことを脳に知らせる信号なんです。ところが残念ながら、ガンは、正常細胞が細胞分裂を繰り返す中でミスプリントが起きて、異常細胞ができるわけだけど、その瞬間、つまり悪性腫瘍ができた瞬間に、痛みを発してくれはしないんです。
阿川 じゃあ、ガンの痛みっていうのは?
鳥越 それは、ガンが大きくなってしまって、機能障害を起こし始めた段階。妙な咳が出るとか、食べ物の通りが悪いとかもそう。そうなっては手術も難しいものになるし、手遅れになっているかもしれない。早期発見が大切というけれど、ガン細胞が痛みを発しない以上、自分から見つけにいかないと見つからないんです。つまり、ある程度の年齢になったら定期的にガン診断を受けなければいけない。
阿川 そうしないかぎり、早期発見できないと。
鳥越 早く見つけて、早く手術をすれば助かるガンもたくさんあるんです。4期の僕だって、普通の生活に戻れて仕事にも復帰できた。去年、無事に70を迎えられたし。
阿川 確かに鳥越さん、ちょっと驚きべき回復ぶりですよね。
鳥越 うん。せっかく古来稀なりという年を迎えられたんだから、去年は今まではやらなかったことをいろいろやってみようと思いましてね。
阿川 ほお。何を?
鳥越 まずパーマをかけてみた。そしたらこれが大不評。ベートーベンみたいになっちゃってね(笑)
阿川 ガンとの闘いを経て、なにかご心境に変化はありすか。
鳥越 やっぱり、それまでは漠然としか考えていなかった、人生の残り時間を思うようになりましたね。何に対しても感じ方が深くなった。春になって桜が咲いても、昔は「ああ、咲いてるな」って思うだけだったけど、今は「来年、桜の花見られるかなあ」という気がどこかにある。だからこそ、ちゃんと見ておきたいと思うし、改めて、桜ってきれいなんだなと思う。
『週刊文春』
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