加藤のメモ的日記
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2011年08月28日(日) 9月の大暴落に備えよ

暴落の足音

アメリカの債務問題を契機に世界中で高まる米ドル不信。その先駆けが「米国内」で起きていたことはあまり知られていない。アメリカ西部に位置するユタ州。2002年にオリンピックが開催されたソルトレイクシティを州都に持ち、スキーリゾートの一大拠点として知られる土地だ。豊かな風土と治安の良さを売りにする一方で、近年はIT産業が集積、非在来系資源として注目されるオイルシェールの産地でもある。

そんなユタ州が今年5月、”異例の措置”を決定した。ドル以外に金貨と銀貨を「通貨」として認める法律を制定した。これを定着させて州内のスーパーマーケットやガソリンスタンドなどでドル紙幣に加えて金貨や銀貨で支払えることを目指しているというものだ。

コンビニのレジで1000円札ではなく金貨で清算している人を想像してほしい。事の異常さがわかるだろう。言うまでもないが、ユタ州の対応は、ドル安を放置し続けるワシントン当局への「身内からの反乱」にほかならない。「ドルはもう信じられない」そんな不安がアメリカ国内でじわじわと広がっているのは「財政のひっ迫」を国民が肌身に感じ始めているからだ。

市役所などでは週に5日間開くことができなくなり、毎週1日は職員を無給で自宅待機させている。サンフランシスコ市役所では職員の40%がレイオフ(一時解雇)されたという。こうした公共サービスのカットや停止が全米各地に広がっていることから、米国民は一層ドル不信を強めているのだ。

ニクソンショックを契機に世界は変動相場制に突入し、米ドルは基軸通貨として君臨し続けてきた。あれから40年。「アメリカの権威」が暴落の瀬戸際まで追い込まれている。さらに欧州ではギリシャ危機に端を発したユーロ危機が再燃し、中国の成長にも陰りが見えてきた。今世界同時不況の警告サインがうなりを上げ始めている。一体、世界はこれからどうなってしまうのか。

「投資家がドルを売り浴びせるのは、アメリカ経済が大きく後退するとみているから。アメリカはリーマン・ショック後に大胆な財政政策や金融政策で市場にカネをばらまいて景気を下支えしてきたが、これが効かなくなってきた。そこへ債務問題や米国債の格下げ問題が発生し、緊縮財政へ舵を切ったため、米国経済の低迷は必至だと考えられるようになった。

国内外から突き付けられたドルへの「ノー」に対して、オバマ大統領ら連邦政府は「米国債は安全だ」「格付け会社は2兆ドルも計算間違いをしていた」と火消しに躍起だが、それも”無駄足”ということ。世界はアメリカの「成長性」に疑問を抱いているからだ。

職も貯金もないアメリカ人

深刻な不況、失業の背景にあるのは産業の衰退である。デトロイトで自動車を作っていた時代は遠い昔。リーマン・ショックで「ビッグ3」は事実上崩壊した。今やデトロイトのダウンタウンはドラッグと犯罪に汚染された一大治安悪化エリアになり下がっている。「アメリカの小売店を歩けば、『産業不在』の実態はよりわかる。売られている日用品から家電製品までほとんどがメイド・イン・チャイナ。一方で中国国内を見渡してもメイド・イン・USAの製品など全く見当たらない。中国からは毎年『調達団』という買いつけ代表団がアメリカを訪問するが、買いたいのは航空機ぐらいしかない」(拓殖大学教授朱炎氏)産業がないから雇用は生まれない。借金に下支えされた「大量消費」が限界を迎えた今、新規産業を育成してこなかったツケが回ってきている。

アメリカ人自身がその「ぬるま湯」につかり、汗を流してせっせと働くエネルギーもパワーも失ってしまった。一部の金融マンが、マネーゲームだけで数十億円の儲けを稼いでいたのはやはり異常だった。

このままいけば英国で起きているような暴動が起こるかもしれない。最悪の場合、2008年のリーマン・ショック、つまりは”ブッシュ恐慌”が再来することになる。アメリカ経済戦略研究所のクライド・ブレストウィッツ署長もこう語る。「政府は軍事費を削減すべきなのに、経済刺激に必要な支出を削っている。消費が減少、貿易赤字の増加が続けば、アメリカ経済は景気の二番底に向かっていく。それは世界的な不況へ波及していくかもしれない」3年前に世界中が苦しんだ「同時不況」が目の前に近づいているのだ。

さらにそれに拍車をかけているのが欧州の惨状である。アメリカと同じく市場から「不信任」を突き付けられており、世界の「ユーロ離れ」が止まらない。欧州では経済規模も成長性も異なる国々が同じユーロという通貨を共有したことで、実態以上の信用力を持つ国が出てきた。ギリシャ危機を契機にこれがイリュージョン(幻想)だったことがバレて、ユーロバブルが崩壊し、投資資金が逃げ出し、スペインからフランスまで各国の国債が売られ、国債を多く保有する欧州銀の株が急落する事態にまで発展している。

アメリカが金融工学なら、欧州は通貨統合という幻想でマネーを集めていた。その実態が見えて、市場の信頼を失っている構図はまるで同じだ。違うのは欧州はまだ産業が力を維持しているように見えること。ただフォルクスワーゲンなどほんの一部の有力企業を除けば、折からのユーロ安にもかかわらず輸出を大きく減らし、業績悪化に苦しむ企業が急増している。

庶民が”スレスレ”の自己防衛を始めている。それはフランスでは「ノワール」と呼ばれているもので、請求書と受領書なしの取引が横行。例えば街の水道工事会社に修理を依頼した場合、普通は請求書と受領書が交換されるが、書類は一切交わされない。そうすることで税金支払いを逃れている。イギリスで起きた暴動の原因の一つに、民族問題があるが、より重要な点は若者の失業率が高止まりしていることである。ロンドンでは若者の失業率が20%に及ぶといわれており、その不満が暴動につながった。かっては移民の天国といわれていた地が、不況によって暴動の地に堕ちた。

ユーロの崩壊は近い。それは間違いない。ユーロを最終的に支えられるのはドイツしかないが、今ドイツの学識経験者や議員の一部がユーロ諸国への支援は「財産権などの権利の侵害にあたる」として訴訟を起こしている。もしこれがドイツ国内で認められれば、ドイツはユーロから脱退する可能性もある。そうなればユーロ圏は空中分解して、通貨ユーロは崩壊することになる。ドル、ユーロが信用力を失墜し、一時的に円が買われているが、それも長くは続かない。国内産業が衰退し、今後長期にわたって人口が減少し続ける日本も、いずれ欧州と同じ道をたどるのは火を見るより明らかだ。先進国の失墜、そしてマーケット関係者の間では「1937年の再来」が語られ始めている。

中国とアメリカの交渉は「大国」同士のメンツのぶつかり合いになる。たがいに国内に政治問題を抱え、国民の不満が溜まっていて、妥協するのは容易ではない。とくに中国は、国内の不満から目をそらすために対外的に強い態度をとり続けている。そして交渉が決裂し、中国が報復として大量の米国債を市場に売り浴びせ、米国債が大暴落するのが「最悪のシナリオ」だ。

1929年の大暴落、1987年のブラック・マンデー、‘08年のリーマン・ショックは、いずれも9月〜10月に起きた。そして今回もまた、「不吉な9月」に向けてマーケットが不可解な動きを見せ始めている。今、日経平均がリーマン・ショック後の最後の下げ局面にそっくりの動きをし始めた。このままいけば9月中旬にかけて大暴落が起きることになるだろう。日経平均は7000円台に突入、もちろん米欧の株式市場も崩壊する。

そこからは何が起こるかわからない。さらに株価急落が止まらない事態になるかもしれない。こんな”暴落相場”の中で、いかに自分の資産を守るか、しっかりと考えなければいけない時期に来た。


『週刊現代』






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