加藤のメモ的日記
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2011年07月07日(木) 病院のカラクリ(40)

○「大学病院のお医者さんは論文ばっかり書いている」という話でしたけど、なんでそんなことになるんですか?みんな、患者さんを治すことより勉強するほうが好きなんですか?

●一般に、大学教授というのは、教授会で選ぶわけですが、その時の基準が「論文の数」なんです。文部科学省もその大学がいい大学かどうかという判断は、そこの医局から出てくる「論文の数」で評価します。だから、外科の医局なのに、動物実験ばかりしている所だっていっぱいあります。

○人を診ないで、動物の相手ばっかりしているワケ?

●今、医学博士号を取得するための論文は、約8割が動物実験によるものです。結局、医学で博士号を持っているというのは、獣医の免許を持っているというのとほとんど変わりませんね。

○つまり、博士号なんていったって、人間の病気を診る能力とは、あんまり関係がないんだ。でも8割が動物実験ってことは、「人間では実験できないから、仕方なく……」っていうことなんじゃないの?

●いいえ、たんに面倒くさいだけです。

○でも、人体実験じゃまずいんだし…。

●人体実験はできなくても、いろんなことができますよね。例えば僕は、アルツハイマーの人の肺炎に関する研究で博士号をとったんです。アルツハイマーで肺炎になった人を対象に、「過去の病歴」や「過去2年間にどんな薬を飲んでいたか」「どんな脳梗塞があったか」といったようなデ−タを解析したんです。あるいは、いま、がんを殺す免疫細胞として「NK細胞」というのが注目されているんですが、そのNK細胞の活性の研究では、「大阪・難波のグランド花月にボランティア20人を連れて行き、そこで落語や漫才を見る前と見た後で、NK細胞の活性がどう変化するか」ということを調べたんです。結果は、見たあとのほうが活性が上がっていた。こういうことだって、やる気になればできます。

○そうか、確かにそういうこともできますね。それと比べると動物実験のほうがだんぜん楽だもんね。動物は何も文句を言わない。

●動物実験だったら研究室の中だけでできて楽だし、論文もたくさん書けますから。大学というのは、「ウデのいい医者が教授になる」という仕組みではなくて、「論文をたくさん書いた人間が教授になる」という仕組みですから。

○そいうのって、ずいぶんヘンだよね。

●だから僕は、今の評価システムが、根本的に間違っていると思うんです。「論文の数で教授を決める」というのは、野球でいうと、「守備が一番うまいヤツがいちばんいい選手だ」と決めつけるようなもので、ある一面しか見ていないわけです。「論文をたくさん書くことができる」というのは、医者の能力の一つかもしれませんが、医者の能力をそれだけで計ることはできないですよね。

○野球なら、打率とか、ホームランの数とか、いろいろあるよね。なのに大学病院では、「論文の数だけで評価する」と。でもそんなに論文ばっかり書いていたら、臨床っていうんですか、患者さんを診るほうがおろそかになりますよね?

●なりますよ。もちろん。

○そりゃ困ったなぁ。ずいぶんカンタンに言いますね。じゃあ、大学病院のお医者さんって、やっぱりウデはイマイチだと思ったほうがいいのかなぁ…

●とくに外科系の教授は最悪です。動物実験ばかりして論文せこせこ書いて、なんとか教授にのし上がっても、もうその頃は50代ですから、老眼は始まっているし、手は利かなくなってるし…。

○そういう医者が、医療ミスとか起こしちゃうわけなんだ…。ここでちょっと医療ミスの話をしたいんですけど。手術って何人かグループでやったりしますよね?そういう時、執刀しているお医者さんがミスしたら、ほかの人、ミスがわかるんじゃないですか?

●分かることもあるでしょうけど、執刀医が教授だったり助教授だったりした場合、それを言ったら終わりだから…。

○あっ、そうか。「アレェー、教授、いま、間違えて切っちゃったよ」とかうっかり声に出しちゃうと、僻地に飛ばされるかもしれないもんね。ところで、そういう手術ミスで、後遺症が残ったりとか、死んじゃったりとかいうときでも、患者さんや遺族にはわからないですよね。「残念ながら、手遅れでした」とか言って、ミスを隠していることもあるんじゃないですか?

●たぶんありますね。カルテを公開しないですから…。

○そういうとき、「おかしいな」と思って裁判起こしても、よっぽどのことじゃないと負けちゃうよね。

●日本の裁判で一番マズイのは、「原告側に立証責任がある」という点です。損害賠償を請求する側に立証責任がある。つまり、医療ミスの裁判の場合、『患者さん側が、医療者側にミスがあったことを立証しなければならない』ということなんです。

○それは難しいですよね。だって、お医者さんと患者とでは医療に関する知識が全然違うんだから。そうなったら、ミスされた側は、もうやられっぱなしで、「どうしようもない」ってことなんですか?

●イヤ。これは、法律を変えればいいだけの話です。贈収賄の事件でも同じことなんです。「被告が受け取ったカネが賄賂でないことを証明しなければならない」というように法律を変えれば、それで解決することなんです。

○医療裁判でも、「医療者側が、ミスじゃなかったことを証明しなければならない」というように法律を変えればいいと。

●そうです。

………

●さっきの話の続きになりますけど、大学教授って、そのくらいレベルが低いんです。とくに横浜市大というところは、東大とかにコンプレックスがあるようで、「研究業績でしか教授を選ばない」という話がよく聞こえてきます。少なくとも精神科の教授は、二代続けて、教授になる前の20年間、臨床経験がなかったんです。

○「臨床経験がない」っていうと、研究一本だった?

●そうです。二人とも東京都精神総合医学研究所っていうところで、顕微鏡を20年間覗きつづけた、脳の病理学者です。アルバイト以外は20年ほど患者を診ていなかった人が教授になりました。横浜市大は、少なくとも教授会がそういう決定をする大学です。だから、あんなコワイ病院、ちょっとないなと僕は感じてしまいます。横浜市の人が聞いたら、大分気を悪くするかもしれませんが……。

○でも、「横浜市大が特別」っていうワケじゃないんでしょう?ちょっとずつの差はあるにせよ、「どこの大学でも、論文至上主義で教授を選んでいる」という話でしたよね?僕らはそういうことを全然知らないから、「大学病院の教授は名医だ」って思いこんでて、それが逆にコワイんですけど……。

●「大学病院は手術実績を公表しなければならない」というようにすればいいです。だって大学病院は、厚労省から補助金を受けているんですから。手術実績が公表されれば、「大学病院というのは、憧れるに足りる病院ではない」ということも広くわかってくるだろうし……。それに、「いい加減」というか、「ヒドイこと」もあんまりできなくなるだろうし…。

○「ヒドイこと」って?

●例えば、「おっ、胆石か。じゃあ研修医に練習させておこう」とか、「むっ、盲腸か。さあ練習に使おうぜ」とかいうようなことです。

○「カンタンな病気ならどんどん練習台にされちゃう」ってこと?よく、「貧乏人が大学病院に入ると、実験台にされる」という話を聞くことがありますけど。

●いや、「カネを持っていないから雑に扱っても平気だ」というようなことはありません。ですが、「コイツだったら、失敗しても泣き寝入りするだろうな」というような人は、いかにも狙われやすいということはあるでしょう、たぶん。弁護士とか、裁判官とかに知り合いがなさそうな……。

○ヤクザの関係でもなさそなね。親戚に「その筋の人」がいたりしたら、お医者さんだって、そりゃやぱり怖いよねぇ。

●そうそう。「貧乏人か金持ちか」ということより、「身寄りのない年寄り」とか、まぁ、「どこからも文句が出なさそうな人間」を研修医の練習台に使っているんだと思いますよ。



『病院のカラクリ医者のホンネ』


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