加藤のメモ的日記
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| 2011年06月28日(火) |
財政危機の嘘 (39) |
財務省は「日本は「834兆円もの債務を抱えている。これはGDPの160%にもあたる危機的数字だ」と財政危機を盛んに宣伝し、増税の必要性を強調している。しかし、これは財政タカ派の増税キャンペーンであり、数字の扱いには注意がいる。裏にはトリックが隠されているからだ。
これは二つの点でおかしい。第一点は、債務だけを強調し、日本政府が保有する莫大な資産については、触れていないことである。財務省のいう834兆円は「荒債務」と呼ばれるもので、民間企業におきかえれば、銀行などから受けている融資や取引先への原材料費の未払い金などの負債である。確かに834兆円の債務は国際的に見ても群を抜いて多い。この金額だけを見れば、日本は世界一の大借金国という見方も成り立つ。
だが、粗債務の大きさだけでは、財政は評価できない。粗債務の数字にも意味はある。ただし、国際的にしばしば使われている、もう一つの指標「純債務」のほうがはるかに重要だ。企業は内部保留や土地などの資産を保有しているので、必ずしも負債の総額がそのまま債務とはならない。そうした金融資産を差し引いた数字が「純債務」だ。
たとえば、1000億円の負債を抱えている企業があったとしよう。この企業が、一方で500億円の資産を保有しているとしたらどうか。普通、企業の財務内容は、粗債務ではなく、純債務で見るので、この企業の負債は500億円となる。日本政府も、現金・預金や有価証券のほか、特殊法人などへの貸付金や出資金、および年金資金運用基金への預託金などの金融資産と、国有財産や公共用財産(道路、河川など)などの固定資産を保有している。
しかも、日本ほど政府が多額の資産を持っている国はない。政府資産残高の対GDP比で先進国と比べてみるとわかる。日本は150%程度なのに対し、アメリカは15%程度。一桁違う。EU諸国と比較しても、イギリス30%台、イタリア70%台と、日本の政府資産はケタはずれに大きい。2005年末に発表された額では、日本の政府資産は538兆円にも上がっている。これを粗債務から差し引くと、純債務は300兆円まで減る。ところが、財務省の発表する数字は常に粗債務で、これら政府が保有する資産を差し引いてはいない。
つまり、「純債務で見れば日本は財政危機ではない。国債の格付けを下げるのはおかしい」と主張したのだ。海外向けのアナウンスでは、国内向けとは全く逆のことをいっているということである。
税収は約50兆円、予算は約80兆円なので、毎年30兆円の赤字が積み重なる。80兆円の使い道は、20兆円は国債の利払い、20兆円は地方への交付、20兆円は社会保障費のための予算となっている。残る20兆円で、国防や教育など他のすべてをまかなっている。その上社会保障費は、少子高齢化によって今後、急速に膨らんでいく。これ以上、削れるものもないので、増税するしかない、というのが増税派の人々の主張だ。
財務省の「財政赤字で国が非常事態だ」とのキャンペーンは一般会計の話としては正しい。一般会計は、毎年赤字でフローとしては税収(歳入)より歳出が上回っている。2008年度の予算でいえば、歳出は約83兆円だが、税収は55兆円しかない。差し引き28兆円の赤字だ。そこで、赤字国債を発行して穴埋めしてきた。このフローの赤字が積もり積もって、ストックとして800兆円もの負債に膨らんでいるのだ。
バランスシートで、試算より負債が大きいとストックの借金があるという。株式会社でストックが赤字の場合、これを債務超過といい、普通、経営が破綻しているので、そんな企業は世の中には存在できない。だが、国の場合破産はないので負債が上回っていることはあり得る。世界のどこの国を見ても、負債のほうが大きい。
日本の場合、バランスシートで見れば、もろもろの債務を含めて約1000兆円の夫妻がある。一方で、約700兆円の資産があるので、純債務は約300兆円だ。この数字が大きいか小さいかは別にして、ストックが赤字になっているのは確かである。しかし財政の指標は純債務の額の大きさだけではない。それ以上に大事なのは、債務の対GDP比だ。国家にとって財政再建とは、借金を返すことではない。債務である公債残高のGDP比を減らすことなので、債務の対GDP比が問題になる。
正確にいえば、実質的な負債は純債務なので、「純債務の対GDP比」が重要になるのだ。だが、日本の以外の国は、資産をさほど保有しているわけではないので、祖債務と純債務はほぼ等しく、便宜的に「祖債務の対GDP比」で見ることも多い。財務省の指摘するように。現在、「祖債務の対GDP比」は160%という高率で、これは国際的にも断トツで高く、お世辞にも健全な財政とはいえない。
しかし、日本のGDPは500兆円あまり。アメリカに次ぐ規模である。分母も非常に大きく、経済規模の小さな発展途上国とは違う。しかも、政府の資産は約700兆円もあり、純債務は約300兆円だ。純債務の対DP比は、60%。決して低いとはいえないが、適切な経済政策を実施し、経済成長を促せば、管理できない数字ではない。
『日本は財政危機ではない』
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