加藤のメモ的日記
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| 2011年06月07日(火) |
封筒の中には5万円が |
…ところがそこへ機動隊が出動し、バリケードを築いて、漁民たちが船に乗れないよう動きを抑え込んでしまった。それでも必死で船を出した人たちは、海上保安庁に逮捕されました。似たようなことは、原発が建設される他の土地でも起きています。反対のデモなどしようものなら、公安警察が来て写真を撮られる。これは大変な恐怖です。電力会社が反対派の人々を写真撮影し、「業務を妨害した」として訴訟を仕掛けたケースもあります。お金と権力を総動員して、反対派を封じ込めるのです。
賛成派を増やす工作も熾烈です。例えば、核施設の建設に全員が反対していたある集落の話。そこの各家庭を、電力会社サイドの人が毎日、「説明を聞いてください」と訪ねて回るようになりました。農民も漁師も、毎日お客さんに来られては仕事にならないので、「話はわかったからもう来ないでくれ」と頼みました。すると「わかりました。そのかわり我々の説明会に来て下さい」といわれる。根負けした住民が全員で説明会に参加すると、「資料です」と言って封筒を渡された。帰って中を見ると、5万円の現金が入っていました。
これを受け取ってしまうと、返すに返せません。しかも「説明会はあと5回やります」という連絡が来る。そうなると、お金がない人が多いので「もらえるものはもらっておこう」となって、やがて反対論は下火になっていきました。それでも「金など欲しくない」と突っぱねる少数の人たちは、「へそ曲がり」と非難され、いじめの対象になる。さらに「○○さんは別に金をもらっているらしい」といった噂が広がり、みんな疑心暗鬼になる。こうなると人々は完全にバラバラで、電力会社側の思う壺です。反対運動などできるわけがありません。
こうして原発ができ、原発城下町となった地元でよく起こるのが、巨額の補助金などを見込んだ過剰な投資。その典型がさまざまな「ハコモノ」を造ったものの、やがて維持できなくなり、借金返済に追われ、自治体の財政が危機に陥る、というパターンです。福島第一原発がある双葉町は、まさにそうやって早期健全化団体、つまり破綻状態に転落しました。その結果、9億円の初期対策交付金欲しさに、既存の第5、第6号機に続いて、第7、第8号機も誘致していた。原発による破綻を原発依存で立て直そうという、完全な悪循環です。
伊方原発のある愛媛県伊方町では、過疎化と少子化が進み、住民の所得水準も下がってしまいました。荒廃する農地も増えている。「原発ができて結局、いいことは何もなかった」と漏らす住民も何人もいます。放射性物質が堆積することも、原子力と他の産業との共存を極めて難しくします。特に農地や海が汚される第一次産業には大打撃。住民が団結して頑張ろうにも、建設段階で分断されている。地元の活力も人の心も疲弊する。悲劇としかいいようがありません。
『週刊現代』
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