加藤のメモ的日記
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2011年04月12日(火) 記憶の再生 (24)

私たちの人生は70〜80年が限界であり、その後は何も残ることはなく”無”の状態に戻るとすれば、なぜ誠実さと努力が必要なのか。私にはそのような考えを受け入れることはできない。永遠の時の流れの中で人間の一生は一瞬の出来事にすぎず、その短い人生を楽しまなければ、またいつ楽しめるのか?手段と方法を選ばず、楽しみを求めて人生を満喫するほうが理にかなっているのではないか。いくら努力しても死んでしまえば終わりならば、なぜ、わざわざ苦労を買って生きていかなければならないのか。いくら他人に迷惑をかけようが、悪い行いをしようが死んでしまえばすべて終わりなのだから、一体誰に遠慮をする必要があるのか?

だが、私たちに永遠の命をもつ魂があるとすれば、問題は大いに違ってくる。もし、その魂が私たちが生きている自分自身の人生によって何らかの償いと咎めを受けるために、新しい身体を受けこの地上に戻ってきたとしたら?自分の本当の姿を積極的に究明している人達にとっては大変興味深い理論であり、逆に新しく見慣れないものを恐れる人達には負担で拒否感をおぼえる考えだとも受け取れるだろう。

キム: 法名は何ですか?

ウォン:……ユシムです……。

キム:それではこの生涯の死の瞬間に行きましょう。何が見えますか?

ウォン:……離れの小さな部屋です。私は横になっています。周りには尼僧が三人座っています。

キム:何歳ですか?

ウォン:67歳です。

キム:病気でしたか?

ウォン:……心臓病です。30代の尼僧と若い尼僧二人がいますが、30代の尼僧は泣いています。彼女は現世で私と一緒に仕事をしているパク・チョンシクです。……。泣くことではないのに泣いています。私の心はとても平穏です。私の姿はとてもやつれた老人です。

キム:死の瞬間に行ってみましょう。

ウォン:…暗いです…。再び明るくなり、私は部屋の中に浮かんでいます。私の肉体が見えます。尼僧たちが泣いています。今、部屋の外に出ました。

キム:何が見えますか?

ウォン:……青い空が見えます。明るい光が見えます。その光について行きます。

キム:その光について行きながら見えるものを話してください。

ウォン:……この生涯でしなければならなかったことが浮かんできます…。もっと修業をしなければならなかったのに挫折し、他人を助けるということができませんでした。私を凌辱した清国の兵士たちの霊魂は本当にかわいそうです。…。私はもっとたくさんの修行と悟りを教えなければならなかったのにうまくできませんでした。

キム:心を落ち着かせて、そろそろ戻りましょう。(現在に戻り、目覚めさせる) 


彼は自責と後悔の感情をとても強くあらわし、現世にもどり催眠から目覚める前に退行で見た二人の娘のうち、一人がいま現世での自分の母だといい、自分を強姦した清国の兵士二人も現世で同じ会社の同僚だといった。目覚めたあとの彼の表情はとても呆気にとられた様子であった。まるでハンマーで頭を殴られたような面食らった顔で自分が見てきた事柄に対して、本当に信じて良いのかわからないといった。次の面会の約束をし、彼は複雑な表情で帰って行った。彼を送り出した後、録音したテープを整理しながら状況によって変わる声のトーンと、彼が見せた強い感情の数々をもう一度確認することができた。

前世への退行が成功した場合、ほとんどの人が彼と同じようにその生涯で一番強く、衝撃的な記憶の中に入り込むことが多い。その理由として、たぶんその事件の記憶の中にそれだけ強く感情的エネルギーが蓄積されるからであろう。前世退行で回想される内容は、本当にその人だけが持っている個人的な記憶なのか?その真偽を幻像や幻覚ではないかと多くの人たちは疑問に思う。もちろん、私もそのような疑問を感じた。

しかし、精神障害者たちが見る幻覚症状は患者の回復の助けにはならない。幻覚症状と複雑な思考障害を持つ急性精神分裂症患者を治療する場合、アズ最初に薬物治療に反応するのが幻覚症状だ。患者たちの幻覚は怖がったり恐れたりと非常に主観的な内容が多く、前世退行のように映画を見ているがごとく一貫したストーリーになっていることはない。

前世退行を通して現在の問題の原因がわかった人たちは、その症状や問題の劇的な好転を経験することになる。これらは精神分析的な面談治療中に忘れられていた記憶を思い出すことで、その記憶と現在の症状との関連について理解し、その結果、症状の好転を得ることができる場合と同じである。まとめると、前世退行は現在でも行われている催眠分析である年齢退行療法を延長し、生まれる前の過去にさかのぼる点が違うだけなのだ。

カール・ユングが主張する集団的無意識理論は、各自の集団ごとに共通の経験と文化背景で形成されている共同の記憶倉庫があり、その集団の構成員はだれでも倉庫に入り記憶をよみがえらせることができるという理論だ。しかし前世退行をした記憶の再生はとても個人的で鮮明であり、その記憶を調査して見ると、実際に痛人物がその時間その場所に存在し、詳細な部分までが一致するなど、その存在を確認できることが多い。また、前世の記憶の内容を見るとその人の現在の性格や特別な才能、弱点度が理解できることも多い。

この患者も初めて経験した退行で、中国に対する漠然とした恐怖と嫌悪感の原因とみられる場面を思い出し、前世で幼い時に置いてきた娘が、現世では自分の母親として生まれ変わり、息子に対し異常な干渉と強い執着で患者に負担を与えている。これはたぶん、前世で置いてゆかれた娘の悲しい記憶が潜在意識の中にあるために、前世で娘だった今は母親がまた、自分から離れていってしまうのではないかという気持ちが知らず知らずに怖れとなっているのであろう。

この患者は幼い時から仏教自体には関心はあったが、お寺に行くとなぜか気持ちが落ち着かないといっていた。仕方なく家族と離れ、別れなければならなかった尼僧にとって修道寺の生活は、心が休まるところとはいえなかったのだろう。自分を強姦した二人の兵士たちと同じ職場で会い、同じ寺で過ごした尼僧の一人とも同じ職場で再び出あった。これは、彼らに患者との関係で清算しなくてはならない何らかのカルマが残っているためであろう。



『前世旅行』



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