加藤のメモ的日記
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2011年03月30日(水) 菅直人という人

地震と津波の発生から半日すぎた3月12日未明、菅首相は唐突に、「福島原発を視察する」と言い出した。それを枝野官房長官が発表し、数時間のの午前6時すぎ、首相は官邸でわざわざぶら下がりの会見を開き、カメラの前で、「ただ今から福島に行って参ります」と芝居がかった表情で宣言し、自衛隊ヘリに搭乗した。

その姿は、‘96年厚生大臣を務めていた菅氏が、テレビカメラの前でこれ見よがしにカイワレ大根を頬張った場面を彷彿とさせた。ハッタリとパフォーマンスで総理大臣まで上り詰めた男……。それこそが菅直人という政治家の本質だ。ただ、カイワレ大根をパクつくだけで国民を騙せた当時と違い、今回、彼が直面しているのは”千年に一度”の大震災と、その後に起きた史上最悪レベルの原子力危機である。

自らも言う「国家存亡の危機」の前に、菅首相の下らないパフォーマンスは、まさに百害あって一利なし。福島原発の状況が決定的に深刻化したのも、首相のこの思いつきによる“現場視察”が原因だった。「首相がやって来るということで、現場では急きょ、警察が警備体制を組み、東電側も副社長ら現場幹部が事故対策そっちのけで対応せざるを得なかった。しかも首相が被曝をしないように、圧力がすでに高まっていた1号機の排気をすることもできなかった。『あれが爆発につながった』というのが、政府内でも一致した見方です」(官邸関係者)

首相は視察を終えて東京に戻ると、12日午後3時から官邸で与党党首会談を開き野党党首を前に、「自ら視察してきた。放射能が漏れることはない」などと“断言”した。しかし、福島第一原発1号機の建屋が、灰色の噴煙を噴き上げて大爆発し、放射性物質を撒き散らしのは、首相が「任せておけ」と胸を張ったのとほぼ同時刻、午後3時36分の出来事である。「東電からは事態の説明が1時間以上も遅れ、首相はメンツをつぶされたこともあり、『爆発しないって言ったのにどういうことだ』とキレまくりました。この時の怒りが、15日早朝に、東電本社に怒鳴りこむ伏線になっている」(官邸スタッフ)

政治評論家の浅川博忠氏が指摘する。「地震が起こった瞬間、菅首相はこの震災を自らの延命に使うだろうと感じましたが、案の定でした。さっそく12日には作業着姿で原発の視察に赴いてアピールしていましたが、あれは被災国のトップとして一番やってはいけないことです。首相のために警察は警備人員を割かなければならないし、東京電力も説明対応の人員を回す。本来やるべき仕事が疎かになり、事態の早期解決を遅らせる結果につながりました。

そもそも瀕死寸前だった菅内閣には、この非常事態を抜ければ退陣してもらうしかない。ただ救国内閣にふさわしい人材が、永田町を見回してどこにいるだろうか。

結局、震災が想像を絶する規模になったことに慌て、在日米軍に正式に支援の要請が行われたのは、地震発生から7時間以上もたった後の、11日午後10時ごろだったという。「それも、菅首相や北沢大臣の判断ではありません。外相に就任したばかりの松本剛明大臣が、米国のジョン・ルース駐日大使に支援要請することで、初めて米軍が動き出したのです。首相の判断任せにしていたら、米軍の出動は翌日になったかもしれません。

非常に分かりやすいのが、まったく場違いな場所に突如として登場した、蓮舫”節電啓発”大臣と、辻本清美”ボランティア担当”首相補佐官である。「危機管理において素人同然の彼女らを、この期に及んで抜擢する意味はまったくない。蓮舫大臣は、津波対策の財源になっていた災害対策特別費4000億円を、事業仕分けでカットした張本人。ツィッターで『余震に気をつけましょう』などとノー天気に発言したところ、『お前が言うな!』『くだらない事業仕分けで被害者が増えた』『絶対民主党を許さない』などと批判が殺到し、ツィッターが炎上しました」(全国紙政治部記者)

北沢防衛相が現場を説得し、一度はヘリが離陸したが、放射能が多かったため、その日の作戦は頓挫した。防衛相関係者は「現場の隊員は、最後の土壇場になったら、国のために命を盾にする覚悟を決めている。しかし、だからといって『被爆して死んでもいいからとにかく水を撒け』と言わんばかりの菅首相の感覚は理解できない。命令するにも、やり方というものがあるでしょう」と憤りを隠さないという。

元宮城県知事の浅野史郎氏は、こう語る。「テレビでインタビューを受けている若者の映像を見てください。被災当事者ではない若者が、国民の一人としてやれることをやろうと語っている。停電が起こっても過剰に文句を言ったり、非難する人もいない。他国ではこういう非常時には略奪が起こることもあるが、日本はそういうことが一度もない。食糧を配る際にも、整然と並んで待っている。こういう姿に、国民の教養の高さや、日本文化の高さが表れている。

人類史上でも稀な、超巨大地震と津波に襲われながらも、被災者たちは必死に生き抜き、他の国民は彼らを支援し、一つになろうとしている。菅首相は、頼むからその足を引っ張らないようにしてもらいたい。



『週刊現代』


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