加藤のメモ的日記
DiaryINDEXpastwill


2011年03月21日(月) 地球温暖化(19)

地球上には、危険を真っ先に感じて知らせる“炭鉱のカナリア”役割を果たす場所が2か所ある。つまり、温暖化の影響を特に敏感に感じ取る地域だ。一つは、北極だ。もう一つは南極である。氷の世界でもある南極でも北極でも、地球上のどこよりも急速に変化が起こっており、温暖化の影響がどこよりも早く劇的に出ている様子を、科学者は目の当たりにしている。

写真でみると、北極と南極はよく似ている。どちらも、見渡す限り氷と雪である。しかしその奥に目をやると、びっくりするほどの違いがある。南極の氷冠は厚さ3000メートルもある巨大なものだが、北極の氷冠の厚さは平均3メートルもない。それぞれの氷の下をみると、その違いの原因がわかる。つまり、南極は海に囲まれた大陸であり、北極は陸地に囲まれた海だということである。

北極の浮氷の厚みはこれほど薄く、北極海をぐるりと囲む北極圏の北の陸地では凍った土の層もとても薄い。だから、北極は急上昇する温度にとくに弱いのだ。その結果、温暖化が北極に及ばしている最も劇的な影響は、氷が加速度的に溶けていることだ。北極では、地球上のいかなる場所よりも急速に気温が上昇している。

科学者は、地球の気候システムの中でも驚くほど脆弱な部分が、北大西洋にあると言う。メキシコ湾流が北極からグリーンランドを渡ってきた冷たい風と出会う場所である。メキシコ湾流に冷たい風がぶつかると、メキシコ湾流から熱を奪う。その熱は地球の東への自転が起こす卓越風に乗って、、蒸気として西ヨーロッパへと運ばれる。

海のすべての海流はつながって、一つの大きなメビウスの輪のようになっている。この輪は「海洋コンベアベルト」と呼ばれる。よく知られているのは、米国の東海岸に沿って流れるメキシコ湾流だ。その下には逆方向に流れている冷たい深層水がある。

この巨大な沈みこみ現象を、科学者は“巨大なポンプ”だと言っている。より正確に言うと、「熱塩ポンプ」である。このポンプの原動力は熱と塩分だからだ。このポンプは、世界の海流システムの止まることのない流れを作り出す原動力として、大変な役割を担っている。

1万年ほど前、ある事態が発生した。科学者は、また同じ事態が起こるのではないかと心配している。北米最後の氷河の氷床が溶けた時に、広大な地域に淡水がたまった。五大湖はこの巨大な淡水湖の名残だ。そびえたつ大きな氷が、ダムのようにその湖の東側をせき止めていた。

ある日その氷のダムが決壊し、淡水がどっと北大西洋に流れ込んだ。かってない量の淡水が大地を裂いてセントローレンス川を掘りながら、いっきょに北大西洋へと流れ込んだ時、ポンプの動きが止まり始めた。メキシコ湾流は、ほとんど流れなくなってしまったのだ。そこで西ヨーロッパに、メキシコ湾流からもたらされる熱が届かなくなってしまった。

その結果、ヨーロッパは氷河期へ逆戻りし、900〜1000年の間、氷河期がさらに続くことになった。そしてこの変化はかなり短時間で起こったのである。現在、この現象が繰り返されのではないかと、真剣に心配している科学者たちがいる。ウッズオール研究センターのルース・カリー博士は、グリーンランドの氷が急速に溶けていることをとりわけ憂慮している。それは、グリーンランドが、このポンプが稼働している場所のすぐ近くに位置しているからだ。

最近、カーリー博士は、「このような極端な事態が起こる可能性があるとしたら、温暖化のせいで北大西洋の海洋環境が21世紀に崩壊するなんてありえない、とは言えなくなる」と述べた。

ところで、メキシコ湾流からもたらさせる熱がヨーロッパへ運ばれるおかげで、パリやロンドンでは、ほぼ同じ緯度にあるモントリオールやノースダコタ州のファーゴよりずっと暖かい。マドリッドとニューヨーク市の緯度は同じだが、マドリッドのほうがずっと暖かいのである。

北大西洋で暖かい水が蒸気となって蒸発すると、あとに残る水は、水温が低いだけではなく、塩分が高くなる。水が蒸発しても、塩分はそのまま残るため、塩分濃度は増すのだ。そこで水はぐっと重くなり、毎秒2000万立方メートルという、信じられない速度で沈み込んでいく。この水が海底に向かって真っすぐに落ちていき、南へ向かう冷たい海流の始まりとなる。  151


今、世界中の多くの生物種が、気候変動の脅威にさらされている。中には絶滅しかけているものもある。原因の一つは気候の危機であり、もう一つの原因は、その生物種が繁栄していた場所に人間が入り込むようになったことだ。実際私たちは、生物学者が“大量絶滅の危機”と叫び始めている事態に直面しつつある。種の絶滅は特別な要因のない自然な状態でも起こるが、現在の絶滅は自然な状態の1000倍もの速さで進行しているのだ。

この絶滅のうねりを高めている要因の多くが、気候の危機をも悪化させている。この二つはつながっているのだ。例えばアマゾンの熱帯雨林が破壊されると、多くの生物種が絶滅すると同時に、さらに多くの二酸化炭素が大気中に吐き出されることになる。

陸地に棲む生物にとって熱帯雨林が重要であるのと同じように、海に生きる生物にとって、サンゴ礁はとても重要だ。そのサンゴ礁が、温暖化によって大量に死滅しつつある。観測史上最も気温の高い年となった2005年、多くのサンゴ礁が姿を消した。中には、コロンブスがはじめてカリブ海にたどりついた当時から、いきいきと元気だったものもある。1998年は観測史上2番目に気温の高かった年だが、この年には世界のサンゴ礁全体のうち、16%が失われたと推定されている。

このようにサンゴ礁が消えつつある背景にはたくさんの要因がある。近くの岸から流れてくる汚染物質、開発の進んでいない地域でのダイナマイト漁法、海水の酸性化の進行などだ。しかし、ここ最近、前例のないほど急激にサンゴ礁の状態が悪化している原因の中でも最も致命的なことは、温暖化の影響で海水温が上がってきたことだ。科学者はそう考えている。



『不都合な真実』アル・ゴア


加藤  |MAIL