加藤のメモ的日記
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2011年02月12日(土) プロでも気遣う接続詞(10)

読者にわかりやすく、印象に残るような文章を書きたい。その気持ちは、プロの作家であろうと、アマチュアの物書きであろうと変わりません。プロの作家は、接続詞から考えます。接続詞が、読者の理解や印象にとくに強い影響を及ぼすことを知っているのです。

2,3年前のこと、私は自分の参考にするために、手づるを求めて尊敬する某作家の組版ずみの原稿を雑誌社から貰って来た。10枚余りの随筆である。消したり書き直してある個所をみると、その原稿は一たん清書して三べんか四へんぐらい読みなおしてあると推測できた。その加筆訂正でいじくってある個所は、「…何々何々であるが」というようなところの「が」の字と、語尾と、語尾の次に来る「しかし」または「そして」という接続詞とにほとんど限られていた。あれほどの作家の作品にして、「が」の字や「そして」「しかし」に対し、実に初々しく気を使ってある点に感無量であった。

太宰治の師である文豪・井伏鱒二が尊敬した作家が誰なのか、気になるところですが、一流のプロに尊敬されるような作家でさえ、推敲の過程で修正するのは接続詞なのだということは注目に値します。

原爆投下はおぞましい犯罪だ、個人的には東京大空襲はさらにひどい犯罪だと考えている。「しかし」戦争犯罪を定義したのはニュルンベルク裁判だった。枢軸国の行為のみを戦争犯罪、平和に対する罪と定義し、大都市への空爆など連合国もした行為は定義から除かれた。

原爆投下をめぐってはソ連に核の威力を見せるためだったとの意見もあるが、正しいとは限らない、米国も日本も消すことのできない忌まわしい歴史を直視しなけらばんらない。「しかし」、歴史証人となる目撃者が少なくなり、権力者が史実を気高く偉大なイメージに作り直す作業が始まる。日本も同じ道をだどっているようだ、こうしたプロパガンダと戦わなくてはいけない。人間は個人生活でも、自分の行為を正当化しようとする。だが、国家や権力者がそれを始めたときは非常に危険である。

何をやっても長続きせず、意欲がわかないという若者の人生相談に対して、藤原正彦氏の回答はは、情報にあふれ、選択が無限にあるかかに見える現代、進むべき道を選ぶのが難しいのはよくわかります。「ただ」、あなたは、ここまで生きてきた過程で親や社会から大きな恩恵を受けており、その恩返しをしなければいけません。

役人は人民の召使である、用事を弁じさせるために、ある権限を委託した代理人のようなものだ。「ところが」委任された権力を笠に着て毎日事務を処理していると、これは自分が固有している権力で、人民などはこれについて何らの嘴を容るる理由がないものだ、などと狂ってくる。

もうすっかり知れわたっている話だけど、中国の指導者の大半は、大学の理数系卒業者で占められている、胡錦涛国家主席は水利工程学部で水力発電を学んだし、温家宝首相は地質学を専攻した。そもそもトップ9と呼ばれる共産党の最高指導部、政治局常務委員9人は、そろって理科系出身だ。「しかし」だから中国は発展しているのか、という人がいたら、それは思い違いである。「むしろ」、発展途上国だから理科系が主流になったとみるべきだろう。第四世代と呼ばれる今の指導者は、国家建設に燃えていた時代に育ったから、競って理科系に進学した。指導部もまた建設に比重を置いたから、理科系の人材を必死で育てたのである。

現代絵画は、セザンヌのリンゴから始まるとでもいうべきか。「なぜならば」、死せる自然と呼ばれたように、近世の静物画は死を寓意した表象であったが、セザンヌのリンゴの登場を持って、それは新しい視覚空間を生み出す装置となったからだ。

「しかし」、次のことも忘れないでほしい。第二次世界大戦を引き起こした元凶であるヒトラーはクーデターでドイツの権力を手に入れたのではない。ヒトラーは選挙によって、ヒトラーなら何かをやってくれる、と期待するドイツ国民に選ばれたのだということを。

「だから」原因結果の橋渡しに活躍
「それなら」仮定をもとに結果を考える
「しかし」単調さを防ぐ豊富なラインナップ
「ところが」強い意欲感をもたらす
「そして」便利な接続詞の代表格
「それに」ダメを押す
「かつ」厳しい顔つきで論理づけ
「一方」二つの物事の相違点に注目
「または」複数の選択肢を新す
「第一に」文章の中の箇条書き
「最初に」順序を重視した列挙
「まず」列挙のオールマイティ
「つまり」極端な言い変えで切れ味を出す
「むしろ」否定することで表現を絞る
「とくに」特別な例で読者を惹きつける
「なぜなら」使わないほうが洗練した文章になる
「ただし」補足的だが理解に役立つ情報が続く
「さて」周到な準備のもとにさりげなく使われる
「では」話に核心に入ることを予告する
「このように」率直に文章をまとめる
「とにかく」強引に結論へと急ぐ


猫が歩いている
俺の心が歩いているのだ       (高橋新吉 「猫})


『文章は接続詞で決まる』




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