加藤のメモ的日記
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私は長年、数千人にも及ぶお年寄りを黙々と見てきた。その結果、ボケずに元気で長生きしているお年寄りには、ある「法則」があることがわかってきた。それは決して特別なものではなく、毎日の生活の中でできる、何げない「習慣」である。その「習慣」さえ守っていれば、そう簡単にはボケたりしないのだ。
朝、散歩すること、新聞のコラムを声を出して読むこと、料理をすること、外出することなど。特に男性の場合、定年になって「やることがなくなってしまった」人は、こうしたボケない習慣を知っておかないと10年後、15年後には大変なことになる。ボケは年を重ねるごとに、知らず知らずのうちに忍び寄ってくるからだ。
そのボケのサインにいかに気づくか、それが家族にとってとても大切なことなのだ。好きなことをしなくなった。性格が変わったような気がする。外に出なくなった。一日中ぼんやりしている。なにかいつも探し物をしている、など。
タレントの清水由貴子さんが静岡県の富士霊園で硫化水素を吸い、自殺しているのが見つかった。霊園の職員が現場で黒いポリ袋をかぶり、すでに死亡していた清水さんを父親の墓の前で発見した。傍らには車いすに座った母親がいたが、意識があり母親には命に別条がなかった。
新聞報道によると「迷惑をかけてすみません」、「消防署に知らせてください」と大きな字で書かれた紙が二枚見つかったという。そして、清水さんの自殺の原因が「認知症の母の介護に疲れた」結果だったということもわかってきた。しかも、最初は母子心中を試みようとしたらしい。でも優しい清水さんにはそれができなかった。
あの明るい清水さんが、どうしてそこまで追い込まれてしまったのか。清水さんは責任感が強すぎたのだ。娘がお墓の前で死んでいるのに、ただ黙って車イスに座っていたというお母さんは、誰が見てもおかしい。まさに完全な認知症である。そんな母親を24時間、ずっと一人で介護できるわけがない。清水さんは、一人でそのすべてを背負った。
もっと重要な害が健康食品にはある。それは、各種の栄養を健康食品によって補強してしまうと、そういう栄養素を吸収すべき内臓機能が働くなってしまう。寝たきりになってしまうと歩けなくなるのは、筋肉が「もう使わないだろう」とその機能を衰えさせてしまうからだ。
例えば、朝、散歩をする。そうすると、脳に血流がまわる。ところが、散歩をしなければ脳は働かない。「絶対ボケない生活」は、この習慣を身につける。いわば血流を増やすことを目的とした認知症予防のための「作業療法」である。何もせず、何も考えない生活を長く続けると脳は委縮し、歩かない足の筋肉は衰え、認知症を発症するというわけだ。
例えば、「お母さんはボケの入り口にたたずんでいます。今が大切なんです」といって次のメモを渡す。「決して怒ったり、怒鳴ったりしないこと。お母さんの気持ちになってあげること。なるべく一緒に外出してあげること」。もちろん注意すべきことはまだたくさんある。まず、「この三つの約束」を家族と交わすのだ。
認知症を軽度から、中度へとどんどん進行させてしまうのは、全て家族の対応の拙さが原因である。怒れば怒るほど、その進行の度合いが早くなるのが認知症の最大の特徴である。多くの人たちが認知症の初期の段階でその対応に失敗し、父を、母を、夫を、妻を重度の認知症に陥れてしまっているのが現状だろう。
認知症とは、粗大なる記憶障害により、自分が行なった行為自体をすぐに忘れてしまったり、「見当識」を失い、自分の目の前の相手が誰だか、今、何月何日か、さらには自分が今いる場所すらわからない状況をいい、やがて徘徊をはじめとする、通常の一般的な社会生活を営めない状態になる「進行性」の病気である。
お年寄りでいえば、旅行の予定を立てたり、声を出して本を読んだりすると、前頭葉への血流が増える。また、記憶の中枢が側頭葉にあることから、記憶神経を強く刺激することによって側頭葉に血流が多く流れ込むことがわかった。意外にも朝の散歩は、前頭葉や側頭葉両方に血流が増えることがわかってきた。散歩することによって寝たきりよりはるかに血の流れがよくなるのは当然だが、外に出ることによって、季節の花を見たりして「ああ、綺麗だな」と思えは前頭葉に血が集まり、途中で近所の人と立ち話をすれば、記憶が刺激を受け側頭葉に血流が多量に流れ込むからである。
また、アルコールの大量飲酒は、脳委縮が高い割合で起こるということは、すでに医学的に証明されており、奥さんの話によれば、画像検査の結果、Bさんの脳は、60代にもかかわらず、いつの間にかまるで80代後半の脳のように完全に委縮していたそうである。それまで少量の飲酒は、認知症の予防になるとされてきたが、定年後というあり余る時間が生じて、少量から多量へと進んでしまったのだ。お酒を飲む人は一日ビール一本の晩酌程度で楽しんでもらいたいものである。
近年の研究では、漢方方剤である「抑肝散」(よくかんさん)が妄想や徘徊、暴力の抑制に効くのではないかという研究も進んでいるようだが、私たちは、エーザイより開発されたアセチルコリン分解酵素阻害薬「塩酸ドネペジル」(商品名アリセプト)を認知症改善薬として、アルツハイマー型認知症を中心に使用している。さらに最近、それまでのアリセプトという薬以外に、ガランタミンという薬も開発された。これもすでに三年の治験も終わり、いよいよ間もなく発売になり期待されている。
『絶対ボケない生活』
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