加藤のメモ的日記
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| 2011年02月03日(木) |
中国の徹底した格差社会 |
反日デモや日本企業へのストライキが起きる根底には、中国社会の現状に対する不満もあります。近い将来、少子高齢化社会確実にやってくる中国ですが、今はまだ人口が増えているし、格差も広がる一方です。
ちょっと阿古さんにお聞きしたいんですが、一人っ子政策の中国でも、ひそかに生まれる2人目以降の子供はかなりいるはずですよね。そういう届け出もされず、戸籍のない人はどのくらいいるんですか。
う―ん、そういう統計はないので難しいです。ただ、一人っ子政策といっても、農村によっては子どもも二人まではいいとか、少数民族では3人までОKというところもありますから、一概には言えません。
参考になる数値でいえば中国では10年に1回国勢調査をやっていて、前回(2000年調査】の発表で、中国の人口は約13億人ということになっていますが、実際には約15億といわれていました。最新調査(2010)の数字はまだ発表されていませんが、僕が聞いたところでは、17億という。前回、本当は15億だったのを13億と発表したから、今度はさすがに15億くらいの数値になるとみられています。
さばを読んでいても、10年間で2億人増ですか、それはすごい。
結局、労働力の必要な農村や少数民族では一人っ子政策を適用していないから、貧困で立ち遅れた地域の子供たちばかりが増えていく。一方で、都市部のエリート層は相対的に減っていき、格差が一層広がるという構図がある。
中国の戸籍制度では、「農民」の家庭に生まれた人は農民のまま。出稼ぎに来た農民は農民工と呼びますが、農民工の子供は都市部で生まれて農村などに住んだことがないのに農民の戸籍を持っているために、給料も安く抑えられています。どの戸籍に生まれるかで、将来が大きく変わってしまう。
そういう農村に住んだこともない農民工は、「新世代農民工」と呼ばれています、1億5000万人いるといわれる農民工の中で数千万人はこの新世代農民工です。
すでに格差を背景にした暴動が起きているじゃないですか。
実際はたくさん起きていますが、それを弾圧する当局のテクニックがものすごく高度になっているんです。たとえば、生活苦やインフラの悪さなどを訴えるために、地方から北京へ陳情に来る人たちがたくさんいる。地元と北京を往復するお金もないから、彼らはテントを張ったり、トタン小屋で一時的に北京市内に住み着きます。こうした地域は「陳情村」と呼ばれますが、一時期は数万人がそこに住んでいました。しかし、そういう陳情村も、北京で国際会議があったりすると一掃されてしまう。都市部にやってきた農民を排除するための会社もあります。
ネットで見たことがありますよ。暴力団みたいな連中が、いかにも貧しそうな人殴っているところ。
私が聞き取りをした範囲内では、無理やり排除されて精神病院や労働矯正所に入れられたり、おかしな注射を打たれたりした例もあります。あまりに陳情者が多い地域では、その地域の役人の責任が問われますから、地元から私服警官がついてきて取締りを行なっています。北京には地方政府の出張事務所として利用されるホテルがあり、そこの地下室が陳情者たちの拘束場所になっている、そこは「黒監獄」などと呼ばれていて、陳情者たちに恐れられています。
阿古さんも現地で調査をしていて拘束されたこともあるんでしょう。
はい、怖い思いをしました。だいぶ前ですけど、最近はネット上にも、そういう被害報告がどんどん出てくるようになりました(笑)。だいぶ前ですけど、最近はネット上にもそういう被害報告がどんどん出てくるようになりました、私のところにも毎日のように、どこかで誰が逮捕されたとか、暴力を受けたといった情報が寄せられています。
そういう中国社会の暗部は、ますますこれから広がるわけですよね。さっきの話でいくと、戸籍を持たない人がおそらく2億〜3億人ぐらいいて、彼らは学校教育も行政サービスも受けられない。
僕はそういう中国人を何人も知っていますが、偽の身分証明書をもっているんです。どこかに行くにも、鉄道ならごまかせるらしいけど、飛行機は身分確認が厳しく、すぐに見破られてしまうから乗れない。
ということは、裏社会で生きるしかない。
そういうことです。北京でも、水商売の女性たちや出稼ぎ労働者の中に戸籍のない人がたくさんいる。
農民工は出稼ぎ先では市民権がありません、あまりに格差が広がったから、弱者に配慮する共産主義に回帰しようという動きもあり、重慶では農民工に都市の戸籍を与えようという試みもあるのですが、単に権力闘争や政治的なキャンペーンに終わるのではないかと懸念されています。
インドのカースト制度みたいですね。
都市部では差別があるから、農村に残ればいいかというと、こちらの荒廃もひどいものです。私が以前から調査している湖南省佐洋県の農村では博打が流行し、借金苦による農薬自殺や家族崩壊による独居老人の入水自殺が起きています。中には老いた親を生きたまま火葬場に連れて行こうとした息子もいたと聞きました。親を敬うという儒教思想が徹底していたこれまでの中国ではあり得ないことです。中国の急激な社会変容が。家族と地域社会を崩壊させてしまったともいえます。
都市部をみても、北京郊外などには、大学を卒業しても仕事がない若者などが貧しい暮らしをしている地域があり、彼らは「蟻族」と呼ばれています。そういう人たちは本当に不満の固まりだから、反日運動なんか、ある意味では当局からも弾圧されにくい、リスクの少ない不満のはけ口なんです。農村部の不満と、こうした都市部の学生たちの不満が結びつくと、中国社会の安定が大きく損なわれる可能性があります。
『週刊現代』
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