加藤のメモ的日記
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2010年11月06日(土) 思いがけない逮捕

「今日、逮捕する」その日の朝、取り調べのために出頭した地検の検事室で言い渡された時、私はびっくりして、「何の罪ですか?」と、聞くと、「出資法第3条違反の容疑だ」と。そう言えば、この前、総務部の担当者が「こんな法律もあって、山下さんのしたこととそっくりだけど、こんな法律は現在の銀行の営業姿勢が変わっているのだから、いわば死文化した法律で、まったく無視していいですよ」と、言っていた罪だ、と即座に思いだしました。

こんな罪で逮捕だなんて考えられないし何かの間違いだろうから、きっと勾留48時間で釈放される程度のものだろう、と内心思いつつも、時間がたつにつれ、だんだんと不安になってきました。

その夜は、薄っぺらい布団の中でほとんど寝付かれず朝を迎えました。翌日は、6時30分に起こされました。その後しばらくすると、独房を出るように言われました。「やっぱり何かの間違いだったんだ。これから釈放されるんだろう」と、思ったのですが、とんでもないことで、両手には手錠をかけられ、他の収監されていた人たちと一緒に青い腰ひもで数珠つなぎにさせられて、バスに乗せられたのです。勾留裁判でした。

約1時間バスに揺られて地裁に入ると、また地下室経由で独房に入れられました。2時間ぐらい待たされた挙句に勾留裁判が始まりました。私は容疑事実を全部否認し、「なぜ私が逮捕されたのか、理由が解らない」と、強く訴えました。判事のような人が、その内容を紙に書きサインするようにいわれました。その時だけは手錠をはずしてくれました。

勾留裁判が終わると、Y弁護士が面会にきてくれました、弁護士が手にしていた新聞の切り抜きを見て、びっくりしました、私が拘置所に顔を隠しながら入っていく写真が一面トップに掲載されていたからです。裁判が終わって、拘置所に戻ると検事の取調べが待っていました。

「おい。勾留裁判で不当逮捕っていったって?冗談じゃないぞ。今までの取り調べで全部認めたではないか」と、怒鳴りつけられました。しかし、私は、一度も検事から「出資法違反」で調べられているとは聞かされていないし、小谷氏の「証券取引法違反」の関連で調べられていると思っていたので、事実と違うことを検事が調書に書いていても、あまり逆らわずに小谷氏がいかに巧妙に私を利用したかが分かればいいと思ってサインしたのですから、私そのものが罪に問われるのならば、それなりに調書を書き直してもらわなければ事実関係が明らかにならない、と主張しました。

すると、検事は、「もう長いこと取り調べをしたんだから、改めてやり直すなんて大変だ、迂回融資の事実が11個もあるんだから、いっぺんに起訴するつもりでやっているので、一回で起訴できればすぐにでも釈放されるだろうが、一つ一つ起訴していくとなると、再逮捕、再逮捕で、いつになったらここから出られるかわからなくなるぞ。それでもいいのか」と、鬼瓦のような顔をして怒鳴りつけるのです。

私は、「それほど違っていなければ、裁判で争えばいいかな」とも思い、早くここを出たいと思っていたのでやむなく承知をすると「協力すれば、早く出られるんだ」と、捨て台詞のようにいわれました。今思えば、その時もっと心を強く持って、あくまで事実と違うところは修正すべく頑張ったほうがよかったかなと反省しています。

でも、いろいろな状況の中で、自分の心を鼓舞して頑張るのは大変なことだと、今でも思い出します。検察には検察側の筋書きがあり、その筋書き通りになっていかないと検察は困る点があるのです。そのことは、あとで理解することになるのですが、その筋書きとは、銀行のトップクラスを逮捕することであり、できればそのころ話題になっていた「イトマン事件」との関わりも引っ張り出すことができるのではないか、と考えているのが窺えました。

「西副頭取もここに呼ぼうよ」といって、小谷氏が相対売買で行った株取引のファイルを1枚1枚見せ、副頭取の関係者がいないかどうかを調べられたのです。連日の検察による取り調べは、朝から夜まで続き、何回も同じことを質問され、自分たちの都合のいい供述だけを調書に取っていくのです。

拘置所にはいって、最初の3日間くらいは全然眠れませんでした。厳しい取り調べがこの後もずっと続くのかというのと、家族に申し訳ないとか、親父やお袋はどうしているんだろうかとか、考えると絶望的な気持ちになりました。自殺を真剣に考えたのもこのこの時期でした。

しかし独房には首つりができるような突起物は全くなく、しかも入所するときに、金属のものとか長い紐のようなもの、ネクタイなども一切持ち込ませてもらえません。それでも自殺したという、つい最近のニュース中の北茨木市長の事件も、私には解るような気がします。新聞の報道でよくある「えん罪」事件も、それまでは、「そんなこと言ったって、本当はやってんだろう」なんて思っていたのですが、自分自身でこういう取り調べなどを経験すると、「えん罪」もあっても不思議はないと思うようになりました。


『住友銀行支店長のの告白』


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