加藤のメモ的日記
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2010年10月18日(月) ドクターハラスメント・再発ガン

私はこの患者さんにこうすすめました。「とりあえず、できるだけ速やかに退院してください。入院したままではまともな判断ができなくなります。まったく束縛されない自由な立場で考えられる環境をまず作るべきです」この患者さんは、私のアドバイスを受け入れて一時退院しました。退院後この患者さんは、がん専門病院など数か所の病院でセカンドオピニオンをとり、最終的には手術ではなく放射線抗ガン剤併用療法をご自分で選択しました。

現在治療を終えガンは完全に消失し、経過観察をしています。入院したまま、結果を説明し治療法を押しつけるのは、卑怯な手口です。人質をとって逃げられないようにしておいて、そんな状況で説明し、何がインフォームドコンセントなのでしょうか?百歩譲って検査入院を認めたとしても、検査が終わればいったん患者さんを退院させ、身も心も自由な状態にしてから、改めて結果説明や治療法の説明をすべきです。

これが公正なやり方ではないでしょうか。この手のドクハラで、もっとすさまじい例があったのでこれも紹介しておきましょう。この患者さんの場合、病院を受診してからの検査、診断は非常に迅速でした。ここまではいいのですが、その後が問題でした。乳ガンと確定してから患者さんにこう言ったのです。「うちならすぐ手術ができます。他の所に行けばさらに一カ月以上時間がかかってしまうでしょう。そのあいだに転移したら大変ですよ」

この患者さんが初診から手術までに要した日数は、なんとわずか一週間だったのです。その間、この患者さんのご両親は久しぶりの旅行をなさっていたそうです。それも一週間の長旅でした。そして旅行から帰ってみると、驚いたことに出発前は元気で何ともなかった娘は、なんとすでにガンの手術が行われ、入院していたのです。

久しぶりの旅行を楽しんでいりご両親に心配をかけたくない、そんな親への気遣いから娘さんは自分がガンにかかったことを、旅行中のご両親に知らせなかったそうです。でもご両親にしてみれば、娘の命にかかわる一大事を、どうして相談しなかったのだ、という思ういがあっても当然です。

これでその後元気なられたのならそれほど後悔もしなかったのでしょうが、運悪く再発してしまったのです。患者さんやご両親は、「ガンの専門病院で手術していたら、再発していなかったかも……」と、今では後悔の日々を送っています。この病院の医者にしてみれば、善意のつもりで急いだのかもしれません。しかし、いくらなんでも急ぎすぎです。私から見ればこの外科医は、ガン治療の本質を理解していません。

ガン治療で、一番大切なこと、ガン治療で満足が得られるためには、何が一番重要なのか、それを全くわかっていないことです。少なくともご両親が帰えられるまでは待つべきでした。結果が悪いからいうのではありません。患者さんがガン治療において満足を得られるためには、いかに納得して治療を受けたかどうかにかかっています。結果こそが、気力や体力、総合的な回復力に力を与えるのです。

それに歯医者が治療法について十分説明し、それに対して患者さんや家族が、考え悩み苦しんで、その結果、治療法に納得して治療を受けること、これが最も重要なのです。ガン治療を決して急ぐ必要はありません、わずかな例外を除いて、ガンは一カ月ぐらいで急に進行しません。よく考え、納得するまではもがき苦しむこと。これが結果的に良い病院、良い治療に巡り合う近道なのです。良い治療を受けるには時間を使い、足を使い、情報を、医者を、自分で探すしかないのです。

……

再発と知ると、たいていの患者さんは肩を落とし下を向いてしまいます。いくら自問自答しても、堂々巡りをするだけです。そしてもう駄目かもしれないとあきらめてしまうのです。再発、即、死ではありません。チャンスはゼロではないのです。事実、再発ガンと上手につきあいながら生きている患者さんはたくさんいます。

患者さんのなかには、いまだに再発に関して、間違った認識を持たれている方が多い気がします。再発は突然出てきた新しい芽ではありません。再発の芽は治療以前からあった、隠れていた芽なのです。原発ガンが本店なら、再発ガンは本店から移転した支店なのです。本店が完全につぶれた後には、支店が出るはずがないのですから、支店はすべて本店がつぶれる前に出ているのです。

だから、再発の芽は治療以前からあったのです。治療前にわかると「転移」と呼ばれ、治療後にわかると「再発」と呼ばれるだけで転移と再発は同じことです。見えない、検査でわからない転移が、見える、検査でわかる転移に育つと、再発を呼ばれるだけです。

再発ガンに対する心構えで重要なことは、「ガンとの共存」に治療の目標を買変える、患者さんの意識改革にあります。ガンを全部なくす必要はないのです。なぜなら現在再発していても、患者さんはちゃんと活動しているからです。ガン治療は「同じは勝ち」なのです。現状維持、共存でいいのです。

全部なくそうと思うから、気が滅入ってしまうのです、今までは「ガンに侵されていた」と思うから全部なくしてしまいたくなるのです。発想を転換してみてください。ガンに侵されていたのではなく。「体内にガンを住まわせてあげている」と考えればいいのです。腸の中に共存する70兆個の細菌たちと同じに考えればいいのです。腸内細菌を全部消してしまったら、大変なことになってしまうのではないですか。そう考えると、治療法も変わってくるし、可能性も広がってきます。


『ドクターハラスメント』


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